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「官の関与」に懸念がすぎる 論説副委員長・長谷川秀行

新しい資本主義実現会議で発言する岸田文雄首相=4月12日午後、首相官邸(矢島康弘撮影)
新しい資本主義実現会議で発言する岸田文雄首相=4月12日午後、首相官邸(矢島康弘撮影)

岸田文雄政権が取り組む政策には、民間の経済活動に対する国家の関与を強めるものが多い。例えば先に成立した経済安全保障推進法は、経済や暮らしの安全・安心につながる重要物資の調達や、軍事転用可能な先端技術の開発などで、企業への規制や官民協力を強化するのが特徴である。

産業政策もそうだ。経済産業省の審議会が「経済産業政策の新機軸」としてまとめた中間整理案は、2030年の成長分野への投資を官民で現在の1・5倍にする目標を掲げた。具体的には脱炭素関連で年17兆円、半導体やバイオ関連でそれぞれ年3兆円を官民で投資するなどという内容である。

岸田首相が掲げる新しい資本主義は、市場に全てを任せればうまくいくという新自由主義からの脱却に主眼を置くので、政府が民間への介入を強めるのも当然の帰結なのだろう。首相は訪英した際の講演で、新しい資本主義を担うのは、「官か民か」ではなく「官も民も」だと説明している。

気になるのは、官の関与が強まると、判で押したようにマイナス面ばかりがメディアで強調されることだ。経済安保上の規制強化が企業を萎縮させるとか、半導体分野などの政府支援が民間の自由な競争を損なうとかいう批判だ。そこにはどこか違和感を覚える。

断っておくが、これらの懸念を否定するつもりはない。官の関与が経済活動を歪(ゆが)める側面があるのは確かである。だが、そこばかりを重大視しすぎると、ことの本質を見失うのではないか。

目を向けるべきは背景や効果である。中国は経済を「武器」に他国への影響力を強めており、対中リスクを避ける対応は急務だ。半導体などの戦略物資については欧米でも国を挙げて開発に取り組んでいる。そんな潮流から日本が取り残されるわけにもいかない。

日本経済はこの30年、停滞が続き、再浮上の気配もみえない。その点では官民関係の再構築も打開に向けた選択肢となり得る。もはや、「民間のことは民間で」と原則論に拘泥し、政府が不作為を決め込む余裕などないはずだ。

もちろん、政府介入の効果は厳しく問われなくてはならない。規制で経済安保上の懸念を確実に減らせるか。成長投資で国際競争力は高まるか。官僚が思い描く政策が実態と乖離(かいり)することは多い。政策を不断に検証する作業は、今後さらに重要度を増すことになる。

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