山梨版「新しい資本主義」へ議論開始 リカレント教育重視で好循環目指す

新しい資本主義実現に向けた山梨県の「豊かさ共創会議」=12日、甲府市(平尾孝撮影)
新しい資本主義実現に向けた山梨県の「豊かさ共創会議」=12日、甲府市(平尾孝撮影)

岸田文雄首相が昨年の就任直後から経済政策「新しい資本主義」を掲げているが、山梨県では新しい資本主義実現に向けた動きが始動している。経済団体や労働団体、大学や教育関係者らが集まる県主催の「豊かさ共創会議」で議論が始まった。働く人が経済構造の変化に対応するための「リカレント教育」がキーワードになる。

政労使と教育分野

「政府が目指そうとしている『成長と分配の好循環』は、本県では労使がともに共益関係を築くことが重要だ。課題解決に向けて合意形成を目指したい」

豊かさ共創会議を主催する長崎幸太郎知事は、12日に甲府市内で開いた初回会合で、こう強調した。

会合のメンバーは、長崎知事に加え、経済界では県の商工会議所連合会、経済同友会、銀行協会、労働関連では連合山梨や山梨労働局の代表が集まり、女性団体、山梨大、山梨学院大からも選出されている。

会合の目的は、新しい資本主義をどのような形で進めていくか。政府は今後3年間で、4千億円のパッケージで非正規雇用労働者の円滑な労働移動の支援や、デジタルスキル向上といった人材投資の抜本強化を打ち出している。山梨県としては共創会議で具体的な取り組みを決め、他県よりも早く政府の動きを具体化し山梨経済の再生につなげる狙いだ。

「成長と分配の好循環」のイメージ
「成長と分配の好循環」のイメージ

能力開発で生産性向上

好循環のイメージは、①企業が新規事業への参入など新たな価値創造に取り組む②新たな事業に向け、働く人が新たな能力を開発したり、スキルを身につける③これによって生産性を向上させて、企業の収益改善につなげる④増えた収益を給与などの処遇改善、新たな人材育成など働く人にも適正に配分する-というもの。この①~④を回していくことで、企業の付加価値を大きくし、同時に働く人の賃上げにつなげ、消費を拡大させて経済全体を大きくさせる。

そのため共創会議では、この好循環で生み出した付加価値を企業だけでなく、働く人にも適正に還元させる仕組みをつくることを重視する。特に、働く人が新たな能力やスキルを身につける努力に対して、賃金面で適切に処遇すれば、能力向上への意欲が増し好循環のスピードアップが期待できるからだ。

ネットワークを基盤に

共創会議では、働く人の能力向上に向けた「リカレント教育」を重視する方向だ。

県内ではすでに、山梨大で水素・燃料電池関連技術の講座、山梨学院大で次世代経営者育成ビジネススクールなど、リカレント教育のプログラムが提供されている。だが、現時点では意欲を持った個人の取り組みにとどまり、それを企業が評価して待遇を改善するといったケースは少ない。また、どういったプログラムを活用すれば従業員の能力向上につながるのか、企業も判断できずアドバイスしづらいのが実情だ。

共創会議にゲストスピーカーとして登壇した元内閣官房参与で多摩大大学院名誉教授の田坂広志氏は「キャリアアップ・ユニバーシティ」構想を提案した。大学だけでなくさまざまな教育機関と研修機関が集まり、社会人の学びによる能力開発のネットワーク組織をつくり、そこにリカレント教育の情報やアドバイザーを配置した、ワンストップのリカレント教育の仕組みだ。

共創会議は今後、地域産業人材育成に向けた調査を実施する。企業などのニーズや意向を取り込むことで、実効性のあるリカレント教育提供態勢を構築していく考えだ。(平尾孝)

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