日本写真家協会(JPS)の国際交流委員会の現・前メンバーの有志ら10人で構成される写真展「NO BOUNDARIES」と、そのリーダー格で報道写真家の桑原史成さん(85)による写真展「赤い帝国の崩壊」、さらに併催で、ベトナム戦争時にピュリツァー賞を受賞したニック・ウトさん(71)の写真展「From Hell to Hollywood and Beyond」、3つが東京都千代田区丸の内の2会場にまたがって行われている。
「NO BOUNDARIES」は、人種、国籍、年齢、性別、キャリア、ジャンルなどの垣根を越えて集まったプロの写真家たちが、コロナ禍やウクライナで続く戦争など世界を取り巻く状況を念頭に置き、それぞれが思いを込めた作品を展示、合わせて約40点が並ぶ。
戦争前のウクライナの風景も
桑原史成さんは、1988年から98年にかけてソ連邦崩壊(91年12月)前後の現地の様子や、ソ連との戦争で荒廃したアフガニスタンなどを撮影した写真など合わせて約30点を展示。
その中には、ウクライナを3回訪れて写した農村や軍港の風景もあり、桑原さんは「かつて人々がそこでどのような暮らしを営んでいたのか、写真は風化することなく、現在に大事なヒントを与えてくれる。それらの地が今回のロシアの侵攻で戦場になった」と述べる。
ニック・ウトさんの写真展は、JPS国際交流委員会が国際的な関心を呼ぶテーマに取り組む写真家やその活動を紹介するウエブ上の企画「表現者たち」から発展し、実際にウトさんの作品約20点を展示することになったもの。
その中には、72年6月8日、ベトナム戦争で爆撃から逃れる人々を撮影し、衣服がすべて焼けてなくなり全身に火傷を負って泣き叫ぶ少女が写った1枚も含まれる。この写真は当時、世界各国の新聞、雑誌に掲載され、翌年には報道界で世界的に権威のある米国のピュリツァー賞(ニュース速報写真部門)を受賞した。
そして、75年4月、ベトナム戦争終結となるサイゴン陥落の直前、APのスタッフがベトナムを離れる際にウトさんも出国し、米ロサンゼルスに移住した。一方、写っていた少女のキム・フックさんは一命をとり止め、皮膚の手術をくり返し、現在は亡命先のカナダで暮らしている。
今回の写真展をプロデュースした日本在住の写真家、ブルース・オズボーンさんはウトさんとの話し合いを通じて実感したのは、「戦争終結へ向かう機運の高まりに写真を通じて役立てたとウトさんが強く感じていることだった」と振りかえる。
また、最新の展示として、ウトさんとフックさんが今年5月11日、その写真を持ってローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇に謁見した場面も掲げられている。そのほか、米国移住後のウトさんが撮ったロサンゼルス暴動(1992年)、マイケル・ジャクソン、オバマ米大統領(当時)などの写真も並ぶ。 (坂本慎平)
「NO BOUNDARIES」
会期 : 5月31日(火)まで
時間 : 月~金 午前8時~午後8時、土・日・祝 午前8時~午後5時
会場 : 新東京ビル2階回廊(東京都千代田区丸の内3-3−1)
入場無料
桑原史成写真展「赤い帝国の崩壊」
会期 : 5月31日(火)まで
時間 : 月~土 午前8時~午後10時、日・祝 午前10時~午後10時
会場 : 新東京ビル1階(上と同じ)
入場無料
ニック・ウト写真展「From Hell to Hollywood and Beyond」
会期 : 6月3日(金)まで
時間 : 月~土 午前10時30分~午後10時 日・祝休館
会場 : 日本外国特派員協会(東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビル5階)
入場無料