辺境の名店 愛され70年 横浜のバー「スターダスト」

暗闇に浮かぶネオンが特徴的なバー「スターダスト」=横浜市
暗闇に浮かぶネオンが特徴的なバー「スターダスト」=横浜市

米軍施設「横浜ノース・ドック」がある瑞穂ふ頭(横浜市神奈川区)の入り口付近にあり、約70年の歴史を持つバー「スターダスト」は、戦後の米国による接収下で営業していたスタイルや雰囲気をそのまま残し、いまなお多くの客を引き付ける名店だ。長く経営に携わってきた老齢のマスターは、店舗が〝都会の辺境〟にあることで味わった経営難や、ドラマや映画、人気曲の舞台となって注目され、息を吹き返したことなど、同店がこれまで歩んできた平坦(へいたん)ではない道のりを赤裸々に話す。

スターダストは市沿岸部の倉庫群の一角、瑞穂ふ頭の手前の殺風景な場所にある。周辺に飲食店などのきらびやかなものは何もない。駅も遠く、交通の便も良いとはいえない、まるで都会の辺境といったエリアだ。目の前にある瑞穂ふ頭へと続く橋には「立入禁止」と大きく書かれ、米軍施設周辺の緊張感が漂っている。

撮影の題材に

「昔はここにバーが6軒並んでいたんだよ」。そう振り返り目を細めるのは同店のマスター、林彰男さん(81)だ。父の寛さんが昭和29年に出店。彰男さん自身も早くから経営に携わってきた。

当時の横浜は進駐軍による接収下。林さんらの3軒を含む計6軒のバーは、ノース・ドックに出入りする米軍関係の船乗りたちで活気にあふれていたという。

ただ、その後、状況が一変する。ベトナム戦争(1955~75年)が終わり、米軍の動きも落ち着くと、客が急減したのだ。他3軒はやがて姿を消し、林さん親子も苦境にあえいだ。結果、店舗を売りに出す道を選ぶ。3軒のうち1軒が売れた。

林さんは「スターダストは売れ残った。いまとなっては売れなくて良かったのかもしれないね」と話し、ほほ笑んだ。同店は以降も、飲酒運転の取り締まり強化という社会の変化など、辺境の地にあるがゆえの経営難をたびたび味わうことになる。

ただ、そんな同店を支え続けたものがある。接収時代から守り続ける営業のスタイルだ。昔ながらの雰囲気が買われ、映画やドラマなどの舞台として取り上げられ、脚光を浴びたのだ。

サザン、金爆…

同店が登場する代表的な作品には、昭和61年に始まって一世を風靡(ふうび)したテレビドラマ「あぶない刑事」がある。ドラマや映画など、シリーズを通してたびたびロケに使われた。

音楽分野にも登場した。サザンオールスターズは同店で「匂艶(にじいろ) THE NIGHT CLUB」のPV(プロモーションビデオ)を撮影。さらに「思い出のスター・ダスト」など、楽曲名にもなった。歌手の矢沢永吉さんが駆け出し時代に同店を訪れたエピソードもある。近年では、人気バンド、ゴールデンボンバーが楽曲「女々しくて」のPVで使用し、話題を呼んだ。

同店ではいまも「ロケ地めぐり」などと称して、これらの作品や著名人のファンの来訪が絶えない。

同店では、昔から変わらない店舗外観やレトロな調度品など、港まち・横浜のバーというイメージを体現するような品々が、訪れる客を魅了している。

存続の形模索

同店に入ってまず目に入るのは、カウンター内に施された、オレンジ色が基調のステンドグラスだ。思い思いの時間をすごす7人の裸婦と2種のチョウが描かれている。年代物のジュークボックスは実際に音楽を聴くことができる。

人気のカクテルは「ヨコハマ」。ジンとウオッカをベースにした大人の味わいで、港の夕日をイメージしたといわれるオレンジ色が美しい。会計は、注文時に1杯ずつ支払うキャッシュオン方式。接収時代から続く米国スタイルだという。

米軍施設の傍らで横浜の戦後史を見守ってきた同店。林さんはいま、まだ収束をみないコロナ禍という苦境について、自問を重ねているという。「このままの形で残すべきか、改修など新たな形を模索すべきか」と林さん。「ただ、これまで守ってきたスタイルは、これからも貫いていきたい」と力を込めている。

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