新聞に喝!

藤子不二雄(A) 氏が描いた社会の闇に迫れ 同志社大教授・佐伯順子

若き日の藤子・F・不二雄さん(左)と藤子不二雄(A) さん=昭和40年11月
若き日の藤子・F・不二雄さん(左)と藤子不二雄(A) さん=昭和40年11月

著名な文化人の訃報にはメディアの特徴や力量が表れる。「怪物くん」や「忍者ハットリくん」で知られる日本の代表的漫画家の一人、藤子不二雄(A) (本名・安孫子素雄)さんの訃報で産経(4月8日付)の「評伝」は、コンビを組んでいた藤本弘氏とともに配偶者・和代さんの名をあげ、「支えた2人の相棒」として特徴を出していた。

目を引いたのは、英語メディア「ジャパンタイムズ」が掲載したロブ・ギルフーリー氏の寄稿だ。日本の「Manga」は海外でも人気が高いため研究が活発で、私自身、パリやドイツ・ケルンで開催された漫画関連の学会で発表や参加の経験がある。ギルフーリー氏は、日本語メディアでは扱いにくい「Madman’s Army」に注目し、表面的には順風満帆な高度経済成長期に、あえて人間や社会の暗部を描き出したと評価した。

同書は精神疾患を扱った不条理漫画だ。実在する人物を連想させる内容もあって日本では単行本化もされていないが、故人にとっては思い入れが強い作品であった。平凡なサラリーマンの主人公が狂気の世界に入る構想は、日常生活のなかの暗部を描く「笑ゥせぇるすまん」にも継承されている。

産経も訃報記事のなかで、「ヒーロー漫画全盛の時代にいじめられっこを主人公に据えた」と「魔太郎がくる‼」に言及し、類似の評価を打ち出した。いじめられる当事者に光をあてる安孫子氏の作品は、広く人間社会の闇や弱者に注目する意味で、没後も普遍的なメッセージ性をもつ。

安孫子氏はテレビのインタビューで、自分がアウトロー的少数者として漫画に描いた人物が、いまや社会全体に広がっているようで、未来社会が心配であると述べていた。

実際、新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻といった疫病や戦乱は、安孫子氏が生前危惧したような状況に、国内外を含めて人類が直面しているかにみえる。一見平和な世界のなかに精神的破綻にもつながる危機をみいだした作品は、未来の人間社会の問題を予見し、半世紀たっても色あせない。現代人の〝病〟を先駆的に描いた作品に、もしかすると解決の糸口がみいだせはしないか…。

世界的な関心も高い漫画というコンテンツであるゆえに、国際的視点からみた安孫子漫画の意義や現代社会へのメッセージについて、日本の漫画関係者のみならず、海外の漫画研究者のコメントも含めて、さらに議論を深めるような記事を期待したい。

【プロフィル】佐伯順子

さえき・じゅんこ 昭和36年、東京都生まれ。東京大大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。専門は比較文化。著書に『「色」と「愛」の比較文化史』など。

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