APEC共同声明出せず 形骸化する経済協力の枠組み IPEFにも課題

日米中や台湾など21カ国・地域でつくるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の貿易相会合は22日、共同声明を採択できないまま閉幕した。世界の分断が加速する中、既存の経済連携の枠組みが形骸化している。こうした中、来日したバイデン米大統領は23日にも「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明し、日本も参加する方向だ。ただ、実効性の高い枠組みにするには課題も残る。

会合はタイのバンコクで開かれ、新型コロナウイルス禍からの世界経済の回復などを議論したが、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの非難で参加国の間に温度差があり、共同声明はまとまらなかった。初日に続き、ロシア代表の発言時には萩生田光一経済産業相ら5カ国の代表が退席した。

1989年に閣僚会議が始まったAPECは域内経済のデジタル化を推進するなど、貿易の円滑化に一定の役割を担ってきた。しかし、ロシアや中国に加え、台湾など多様な国・地域が参加。全会一致の原則があり、世界の足並みが乱れる中で意義は薄れつつある。

立教大の桜井公人教授はAPECについて「もともとゆるやかな枠組みで、現状で何か決めるのは難しいだろう」と指摘。一方で、「今では協調するのが難しい国などが集まっており、そういった国同士が議論する場があること自体に意味がある」と話す。

APECに限らず、グローバル化を前提とした経済協力の枠組みは有名無実化しつつある。4月に開かれた20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議でも共同声明の作成は見送られた。こうした中で発足するIPEFという新たな枠組みだが十分に機能するかは不透明だ。

IPEFが中国を念頭に置いた枠組みであるのは明らかだが、中国排除を過度に押し出せば、中国との関係悪化を懸念して参加を見送る国が増える。また、関税の引き下げは対象外のため、参加のメリットが見えにくい上、米国主導で新たなルールが加えられることに対する警戒もある。同じ価値を共有する国が参加しやすい枠組みにしていくことが求められそうだ。(浅上あゆみ)

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