主張

誤給付問題 町も法も時代に追いつけ

正直者が不利益をこうむる社会であってはならない。同様に、不正直な者が得をする社会であってもならない。

山口県阿武町が誤って振り込んだ新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円の一部を使用したとして、住民が電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕された。

容疑者は誤給付金と知りながらインターネットカジノで使用したと話しており、非があるのは明らかである。不思議なのは、誤給付が分かった4月8日から1カ月以上の間、口座を止めることができず、その間に使用を許してしまったことだ。

誤った振込先からの返金は受取人の同意が必要であり、これに応じない場合は相手口座の仮差し押さえを裁判所に申し立てる必要がある。阿武町の場合、容疑者が当初は同意の構えをみせ、これを信用したことから対応が遅れた。

その後、容疑者は口座からの出金を続けた。町は21日、町議会に状況を説明し、5月12日に全額返還を求めて提訴する議案が町議会で可決され、町は山口地裁萩支部に提訴した。県警の逮捕は18日だ。これらは誤給付した全額が使用された後である。

誤給付が明らかであるのに、こうした手続きを踏まなければ口座の停止も求められないことに問題はないのか。町も法も硬直化しており、現状に追いついていないのではないか。

逮捕容疑が象徴している。電子計算機使用詐欺は新たな犯罪態様に対応するため、昭和62年の刑法改正で導入された罪だが、令和の今、誰がスマートフォンやパソコンを「電子計算機」と呼ぶか。

法の成立時に想定していなかった事象はどんどん誕生している。憲法も含め、法のあり方には不断の見直しが必要である。

容疑者が誤給付金の使途として主張している「インターネットカジノ」についても同様である。日本で賭博は禁じられており、阿武町の容疑者には本来、賭博罪の適用もあるべきだ。だが、海外のサイトにアクセスしての賭博行為は実態の解明に高いハードルがあり、実情は野放しに近い。

自民党の中谷元・首相補佐官は阿武町の事件を受けて「ネットカジノを物理的に規制していくことも必要だ」と述べた。それなら新法は、「電子計算機使用賭博罪」とでも名付けるか。

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