記者発

ウクライナ侵攻とドラえもん 文化部・本間英士

先日、公開中のSFアニメ映画「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021」を見た。昭和60年に続き2度目の映画化である。のび太たちが宇宙人の大統領を助け、独裁者と戦う…というストーリーなのだが、コロナ禍で公開が1年延期になった結果、ロシアのウクライナ侵攻と重なって見える部分もあった。

主な筋書きはこうである。ある日、のび太の町にパピという小さな宇宙人がやってくる。実はパピはピリカという星の大統領だった。そこでは独裁者が恐怖政治を敷き、市民は追い詰められているという。のび太たちは友達になったパピを助けるため、ピリカ星へと乗り込む―。子供向けのアニメと侮ることなかれ。見応えのある作品なのだ。

のび太の友人たちの行動も強く印象に残る。突然の敵襲を受け、しずかちゃんは戦う覚悟を決める。このまま黙って独裁者に負けるのは、あまりにも「みじめ」だからだ。だが、ドラえもんは不在で、ひみつ道具には頼れない。スネ夫は泣いて戦いから逃げ回るのだが、土壇場でなけなしの勇気を振り絞る。命をかけた極限下の生の感情のぶつけ合いには異様な迫力がある。これとよく似た光景がウクライナで現実に起きているかと考えると胸が痛む。

「ドラえもん」という作品は箴言(しんげん)であふれている。喜怒哀楽から未来への希望、救いようのない愚かさまで、時代を超えて共通する人間の全てが描かれているからだ。原作者の藤子・F・不二雄は、子供向けの作品だからこそ、ごまかしをしなかった。いじめと家庭崩壊の日々を送る少女と宇宙人の絆を描いた話題の漫画「タコピーの原罪」(タイザン5著)にも、影響が垣間見える。令和の現在も、さまざまな形で「ドラえもん」は生き続けているのである。

アニメ放送では4月、「どくさいスイッチ」を取り上げていた。のび太が消したい人間の名前を呼んでスイッチを押すたびに世界から1人、また1人と消えていき、最後にはのび太が世界に1人ポツンと取り残される。幾千もの言葉を並べるよりも、1つの漫画、アニメ作品がより多くの人々の心を動かす。それが「文化」の持つ強さである。子供にも分かりやすいストーリーなので、世界の独裁者の皆さまにもぜひ見てほしい。

【プロフィル】本間英士

平成20年入社。前橋、大津支局などを経て文化部。放送・漫画担当。書評「漫画漫遊」、アニメなどを扱う「ポップカルチャー最前線」を執筆。

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