ロシアのウクライナ侵攻後、朝鮮半島の緊張度が高まっている。プーチン露大統領が核抑止部隊に警戒態勢を取るよう命じて以降、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が「核の先制使用」に言及し始めた。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領はバイデン米大統領との首脳会談で米国の拡大抑止の強化に合意する見通しで、朝鮮半島での核の対峙(たいじ)が現実味を帯びる。北朝鮮がロシア、韓国がウクライナにそれぞれ軍事支援を行う可能性も浮上し、朝鮮半島の戦略環境は急速に変わりつつある。
金氏が「核の先制使用」に言及したのは4月25日の朝鮮人民軍創設90年の演説だった。核戦力を「戦争の抑止」としながらも「わが国の利益が侵害されるならば第2の使命を決行せざるをえない」とやや控えめに述べた。だが、金氏は軍幹部との会合で「核の脅威を含む敵対勢力の威嚇行動を必要であれば先制的に粉砕する」と語気を強めて宣言したことが、その後、報じられた。
金氏はこれまで「核を先に使用しない」としてきた。まず、核保有を宣言した2016年の党大会で表明し、21年の新年の辞でも「敵対勢力が使用しない限り核兵器を乱用しない」と述べていた。1年余りで方針転換した理由は、プーチン氏の核恫喝(どうかつ)がみせた効果に倣った可能性が高い。