性ホルモンを学ぶ

⑪実は難しい「夫婦の自然妊娠」 人生設計に不可欠な性教育

4月から不妊治療の保険適用が始まった。経済的な負担が減ることで、将来の選択肢として関心を寄せる若い世代が増えることが見込まれるが、日本では性教育の機会が少なく、年齢を重ねるにつれ自然妊娠が難しくなるといったことが十分に浸透していない現状もある。人生設計をする上でも不可欠な妊娠の基礎知識について、専門家に話を聞いた。

妊娠に関する知識不足

「避妊をやめれば、すぐに授かると思っていた」「50歳を過ぎてますが、治療したら子供はできますよね」-。

不妊治療を行っている 六本木レディースクリニック院長、小松保則医師は、初診の面談で患者と交わす会話から、妊娠に関する正しい知識が十分に浸透していない現状を感じている。

不妊の大きな要因の一つに、加齢による妊孕(にんよう)力(妊娠する力)の低下があるが、「日本では性教育が十分にされていない一方で晩婚化が進んでいる。いざ妊活に臨む段階で、インターネットの情報などで学ぶカップルも多いと思うが、もう少し若いときに知識を学び、自身の生殖能力に向き合う機会があるといいのではないか」と話す。

自然妊娠のハードル

小松医師は産経新聞が開催した「妊活セミナー~不妊治療最前線~」に講師として登壇。妊娠成立の仕組みについて解説した。

小松医師によると、妊娠成立までの過程で知っておきたいポイントは、

①排卵

②染色体異常の有無

③卵管や子宮の状態

④男性不妊因子の有無

-の4つだ。

まず排卵について。月に一度、女性の卵巣では卵子の元となる卵胞が複数育ち始め、2週間かけて成長していく。その中から、たった一つの卵胞だけが2センチ大に成長し、排卵を迎える。

「排卵に至らなかった多くの卵胞は自然消滅する。1回の排卵の陰で、約1000個の卵胞が失われるといわれている」と小松医師は説明する。

そもそも女性の卵子の元となる卵胞は胎児のときに作られて以降、新たに作り出されることはない。「卵子の数は有限で、加齢により質が急激に低下していく。数には個人差があることも知っておいてほしい」と語る。

クラミジア感染や子宮内膜症による腹腔内癒着が原因で、卵子がうまく排卵できないことも不妊の原因となるそうだ。

染色体異常の可能性も

次に大切なのは、染色体異常の有無だ。

小松医師によると、排卵した時点で25%の確率で卵子に染色体異常が存在するといわれている。「月に1回、複数の卵胞から唯一排卵まで至った卵子の質が、いいものかどうかは運任せともいえる」。

もちろん精子にも染色体異常の可能性があり、小松医師によると、受精した段階での染色体異常の発生頻度は40%、子宮に着床する前段階でも25%の染色体異常が起こるとされる。

「仮に100個の卵子が排卵されたとして、最終的に受精卵として着床にいたるのは約3分の1程度といわれる。一般的に、高齢になるほど、卵子も精子も染色体異常の発生比率は高くなります」

卵管の運動もカギ

「卵管の働き」や「子宮の状態」も重要だ。卵管には、分裂を繰り返しながら成長する受精卵を子宮へと送り届ける役割があるが「クラミジア感染などが原因で卵管の通過障害や運搬機能の障害が起こることがある」。

受精卵が子宮にたどり着いても、子宮筋腫や子宮内の炎症などが原因で着床できないことがある。

そして、不妊の半数近くが男性側に起因することも押さえておきたい基礎知識だ。

精子の数や運動性に問題があるケースや、勃起不全など性機能障害なども原因となることを、男女ともに知っておきたい。

自分の生殖能力は?

①~④のどこか一つでも不具合があれば、妊娠に至ることは難しい。

厚生労働省によると、晩婚化の影響で女性の第一子の出産平均年齢は30・7歳(令和元年)と晩産化の傾向が続いているが「結婚したカップルが自然に妊娠することは、思っている以上に簡単なことではない」と小松医師はいう。

では、自分の生殖能力をあらかじめ知る手段はあるのだろうか。小松医師によると、男女それぞれに、医療機関などで検査することが可能だ。

女性の場合、卵巣内に卵子がどのくらい残っているのか、その指標を把握する「AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査」がある。

血液検査で、生殖補助医療対象者は保険が適用されるが、医療機関によっては、自由診療で一般の女性も検査を受けることができる。

AMH値について小松医師は「AMH値の高低が妊娠率と直結するわけではなく、妊娠する力でいえば加齢の影響を受ける『卵子の質』が何より大切」としたうえで「仮にAMH値が低くても、質のいい卵子が採卵できる可能性が高い30代前半までに、不妊治療をスタートすれば妊娠する可能性は高くなる」と話す。

若い女性がAMH検査を受けることで人生計画を立てやすくなる側面もあり、「20代半ばくらいで一度、検査を受けてみるのもいいのではないか」という。

男性の場合は、精子の数や運動率、奇形率などを調べる精液検査がある。泌尿器科や不妊治療を行っている産婦人科で行われる。

最近は、男女ともに自宅で検査できるフェムテックのサービスも出てきた。

小松医師は「こうしたサービスで自分の現状を知ることも、将来の計画に向き合う機会となるのではないか」と話している。

人生の節目に、身体的、精神的な影響をもたらす「性ホルモン」の作用に注目が集まっています。性に関する科学的な知識をもつことは、豊かな人生につながります。家庭で、職場で、学校で-。生物学的に異なる身体的特徴をもつ男女が、互いの身体の仕組みを知り、不調や生きづらさに寄り添うことを目指した特集記事を随時配信していきます。

【性ホルモンを学ぶ】

会員限定記事会員サービス詳細