漫画漫遊

核兵器使用の〝その後〟 こうの史代著「夕凪の街 桜の国 新装版」 

©こうの史代/コアミックス
©こうの史代/コアミックス

「核戦争」や「第三次世界大戦」などの言葉を連日のように国際ニュースで見る日が来るとは思わなかった。核兵器の恐ろしさは当然知っている。ではもし使われた場合、10年後、半世紀後に何が起こり得るのか。広島の原爆投下の〝その後〟を3つの時代別に描いた本作を読めばその一端が伝わる。悲しくて優しくて強い、このような時代だからこそ読み返したい物語だ。

本書は平成16年に刊行。今年4月に新装版が発売された。「夕凪(ゆうなぎ)の街」と「桜の国」の2作品に加え、取材ノートやエッセーなども新たに収録する。

「夕凪の街」の舞台は昭和30年の広島。少女の頃に原爆被害を受けた平野皆実はカープの成績に一喜一憂する日々を送るが、内心では家族の秘密と言葉にできない思いを抱える。「教えて下さい。うちはこの世におってもええんじゃと」。皆実の言葉が重く響く。

「桜の国」は前後編。62年の東京で物語は始まる。皆実のめいで小学生の石川七波は野球漬けの日々を過ごす一方、同じく被爆二世の弟は入院生活を送る。後編は17年後が舞台。成長した七波は広島に向かった父を追いかけ、そこで過去の出来事を思い出す。

「夕凪の街」は被爆の当事者、「桜の国」は被爆二世の視点で物語が紡がれる。後遺症はいつ表面化するのかが分からない。2作品とも、自分の大切な人が原爆に奪われる恐怖が根底にある。平成になっても残った被爆者差別の空気感もリアルだ。ただし、悲惨なだけの物語では決してない。

あとがきによると、広島市出身の著者は以前、原爆の話題から「逃げ回ってばかりだった」という。こう正直に明かす著者が一転して腰を据え、取材を重ねて真正面から描いた物語だからこそ読者の心にも刺さる。単なる反戦漫画ではないし、説教臭い作品でもない。かといって分かりやすくもない。何度も咀嚼(そしゃく)し反芻(はんすう)する必要がある。そして、読み返すたびに新たな発見がある。独特の奥深さを持つ作品だ。

今月20日には、先の大戦下の人々の暮らしを描いた「この世界の片隅に」の新装版(上下巻)も発売。激動の時代の再来が危惧される今、本作と合わせて未来に読み継ぎたい。

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