鬼筆のスポ魂

「誠也の穴」感じさせぬコイ、どこかの球団も見習ってほしい〝巧な運営〟 植村徹也

本塁打を放ち、ナインとタッチを交わすマクブルーム(右)
本塁打を放ち、ナインとタッチを交わすマクブルーム(右)

〝誠也の穴〟を全く感じさせない。広島カープのチーム造りのしたたかさには大袈裟な表現を使うならば「畏敬(いけい)の念」を抱く。

不動の4番だった鈴木誠也外野手(27)が昨年オフにポスティングシステムを利用して大リーグのシカゴ・カブスに移籍。2021年シーズンでは38本塁打、88打点をマークした主砲を流出した広島はそれでも今季42試合消化時点で22勝18敗2分けの3位と踏ん張っている。開幕前の下馬評ではBクラスを予想する野球評論家が多かった中で、予想外の大健闘だ。

今シーズンの開幕前、プロ野球OBら野球評論家の多くは広島を評価していなかった。最大の理由は6年連続20本塁打以上を放ち、打線の主軸を務めた鈴木誠也の流出だった。

「さすがに4番が抜けた穴はデカすぎる。FA補強など大型補強もしていないので、4番の穴は埋まらないだろう」「投手陣は大瀬良、久里や森下、床田の先発陣、抑えに栗林と戦える陣容だが打線がV3(2016~2018年)の時代と比べると落ちる」

などなど…景気の良い話はほとんど聞こえてこなかった。しかも、V3達成後の19年シーズンからは4位(緒方監督)、5位、4位(佐々岡監督)とBクラスに低迷。63勝68敗12分けに終わった昨季はチーム打率2割6分4厘、チーム得点557に比べて、チーム防御率3・81、失点589はリーグ5位。弱い投手陣を打線がカバーしていたのに、鈴木誠也が抜けて打力も落ちる…となれば評価が落ちるのも無理はない。

ところが、蓋を開けると今季42試合消化時点でチーム打率2割6分はリーグトップ。得点179も巨人の180に次ぐ。いや、巨人は45試合消化時点の数字だから、赤ヘル打線がリーグ最強だ。本塁打19本はリーグ最少だが、犠打はリーグ最多の45。コツコツと送って、しぶとくタイムリーを放って得点する。

そして、忘れてはいけないのは〝誠也の穴〟を埋めるべく獲得した新外国人のライアン・マクブルーム内野手(30)の存在だ。昨季はカンザスシティ・ロイヤルズの3Aオマハで115試合に出場して打率2割6分1厘、32本塁打、88打点の成績を残していたが、メジャーでは通算66試合で6本塁打、16打点。あまり注目もされていなかった。ところが、18日現在で打率2割8分8厘、5本塁打、打点22、得点圏打率は3割1分7厘。4番が安定した相乗効果で坂倉、西川、小園ら若手が力を発揮し、菊池や会沢らと切れ目のない打線を形成している。

実はマクブルームの活躍を広島は最初から織り込み済みだったはずだ。なぜなら、鈴木誠也のポスティングシステムによる大リーグ挑戦を認めた昨夏以降、球団は4番補強に追われていた。そこで白羽の矢を立てたのがマクブルームだ。体重移動の少ない打撃フォームで選球眼がいい。日本向きの打者だった。30年近く駐米スカウトを務めているジョナサン氏が球団に推薦し、日本球界6球団が競合した末に競り勝って獲得。

ジョナサン氏は日本球界に精通し、プロ野球に適応しそうな選手を知り尽くしている。なので、獲得候補者を数年前から継続的に調査。本人とも〝接触〟する中で、他球団をリードする人間関係を築いている。マクブルームの獲得→成功は偶然の産物ではない。

若手選手を徹底的に鍛えて、ドラフト指名入団の選手たちを主力に育て上げる育成能力の高さ。そして、間違いの少ない外国人選手獲得ルートの構築…。市民球団として戦力整備に大金をかけられないからこそ磨き上げてきたチーム造りのノウハウは凄い。嫌みを言いたくはないが、どこやらの人気球団も爪の垢(あか)を煎じて飲ませてもらったらいい、とさえ思ってしまう。

(特別記者)

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