覚醒剤で逮捕の男 横浜のビルからダイブした理由とは

左側が吉村敏和被告が転落したビル。隣のビルとの距離は2メートル弱だ=横浜市
左側が吉村敏和被告が転落したビル。隣のビルとの距離は2メートル弱だ=横浜市

覚醒剤を使用したとして、神奈川県警加賀町署は4月に覚醒剤取締法違反の疑いで横浜市内に住む無職の男を逮捕した。違法薬物をめぐって逮捕される者は後を絶たないが、逮捕の一報が流れると同署には報道機関からの問い合わせが殺到した。その理由は、さかのぼること3カ月前の1月に起きたある出来事だった。その後の経緯を追ってみると…。

問題の出来事は、横浜市中区の繁華街の一角にある5階建てビルで起きた。それはまるで「玉突き事故」とでもいうべきもので、「本当にそんなことがあるのだろうか」と驚きをもって受け止めた向きも少なくなかったようだ。

事故の連鎖が

「人が建物から落ちた。下にいる人にぶつかった」

1月21日の午後4時ごろ、消防に目撃者からこんな119番通報があった。事の発端はこのビルの屋上から地面に転落した40代の男だった。ものすごい音がしたのだろう。ビル3階にいた40代女性が、何事かと驚いて下をのぞき込んだ。すると、誤って窓から転落。同じように2階から下をのぞいていた30代男性に衝突し、さらに地上に様子を見に来ていた別の30代男性とぶつかった。

事故を伝える当時の記事の文末には、こんな一文もみられた。「屋上から転落した40代男性は直前、現場近くで職務質問を受けており、警察官に『このビルに用がある』などと言い残し建物内に入ったという」

この流れからおおよその想像はつくというものだが、やはりというかこの人物の体内からは覚醒剤反応が検出され〝御用〟となった。捜査関係者によると、男は確かに命に別条はなかったものの、足を骨折するなど相当な重傷を負っており、しばらくの間は取り調べができず、結果的に逮捕まで3カ月の期間を要したというわけだ。

逮捕されたのは同市保土ケ谷区峰沢町の無職、吉村敏和被告(48)=11日に起訴済み=で、取り調べに対しては「間違いありません」と素直に犯行を認めたという。捜査関係者によると、この吉村被告、現場となったビルにはこれまでも出入りをしていたことがあったらしく、実際、転落事故前に建物に入居する事務所に立ち入ったなどとも話しているという。

隣のビルまで2メートル弱

ただし、吉村被告は「気が付いたら病院だった」とも供述しており、転落時の記憶は全くないとも話している。なぜ、ビルから〝身を投じる〟というまねをすることになったのだろうか。いや、ひょっとしたら本人にはそのつもりはなかったのかもしれない。

というのも、実は現場となったビルの隣には別のビルがあり、その間隔は2メートル弱といったところ。「捕まりたくないと思って必死だったのだろう」(捜査関係者)という吉村被告は、ビルからビルへ飛び移ってそのまま警察官を振り切ろうと考えていたのかもしれない。覚醒剤による幻覚の可能性もあるだろう。

ただ、この推測が成り立つとしても、吉村被告は体重100キロはあろうかという太めの体格だといい、その後の顚末(てんまつ)は前述のとおり。もっとも「屋上から転落した際は『ズルズルと落ちていった』と目撃者は話している。どうも、大きな体が建物のどこかに引っかかったようだ。そのまま地面に直に落ちるよりも衝撃が緩和されて助かったのかもしれない」(同)。ある種の悪運というものだろうか。

神奈川県警薬物銃器対策課によると、昨年、県内での違法薬物をめぐる逮捕者は1136人を数えた。つくづく手を出してはならないものであることを、今回の転落事故は物語っているといえるのではなかろうか。

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