死んだ愛犬「闘病中」とネット資金調達 有罪女の浅知恵

女が死んだ飼い犬を闘病中と偽り、治療費を集めていたCFのページ
女が死んだ飼い犬を闘病中と偽り、治療費を集めていたCFのページ

死んだ飼い犬が闘病中だと噓をつき、治療費名目で支援金をだまし取ろうとしたとして今年4月、奈良地裁葛城支部で26歳の女が有罪判決を受けた。女はインターネットで資金を募る「クラウドファンディング」(CF)を悪用。診断書などを偽造し、心配する愛犬家ら370人以上からお金を集めた。善意を踏みにじる行為の背景には、急成長するCF側のチェック体制の限界も見え隠れする。

プロジェクト開始前に死んでいた

「時間がありません。たすけてください!」。昨年10月、奈良県大和高田市に住んでいた女は、重篤な心臓病などを患うフラットコーテッド・レトリバーの愛犬「斗偉(トイ)」の写真とともに支援を募るプロジェクト(企画)をCFサイトでスタートした。

女が利用したのは購入型CFと呼ばれる種類でCFサイトを通じて支援者から資金を募り、お礼に商品やサービスを返す仕組みだ。

血液検査の結果や、診療費の明細書、エックス線写真…。女はCFサイトに〝証拠〟となる書類の画像を多数アップし、トイの闘病記録を克明につづった。

トイが治療のために動物病院に通っていたのは事実だ。

だが、プロジェクトを始める2カ月以上前にすでに死んでいた。にもかかわらず、女は診断書の日付を改竄(かいざん)するなど小細工し、「病と闘う愛犬とその飼い主」を演出。手術代や検査費用に充てるとして最終的に計180万円の治療費の支援を呼びかけた。

反響は大きかった。「わが家も愛犬がいます。応援します」-。ペット愛好家らの応援コメントは400を超え、同12月には374人の支援者から計約184万円が集まった。

噓が発覚したのは、トイが死んだことを知る関係者からの通報だ。女は支援金を手にすることなく今年1月、詐欺未遂容疑で奈良県警に逮捕され、同罪で起訴。奈良地裁葛城支部は4月、「金目当てに支援者の犬を思う心情を逆手に取った悪質な犯行」として懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)を言い渡した。

女は公判で「お金に困っていた。いけないことだと分かっていたが、どれくらいの人が支援してくれるのだろうという気持ちでしてしまった」と説明。「支援者や運営会社に謝罪したい」と声を詰まらせながら話した。

審査に苦心する運営会社

「CFはあくまで『性善説』なのが実情。真偽を判断するため、どこまで情報を出してもらうのか。さじ加減が難しい」

女が利用していたCFサイト運営会社の担当者はこう漏らす。

2万件以上のプロジェクトを公開している同社ではプロジェクトの申請を受け、書類や写真の提出を求めて内容を審査。実現可能性や社会的に有益かなども判断する。

ただ、公開前の審査で診断書の日付などが偽造だと見破ることはできなかった。

今回の事件では支援者たちには全額が返還され、実害はなかった。同社はその後、診断書の事前確認を強化する対応を取った上で、ペットの治療費を集めるプロジェクトについてのガイドラインを公開。企画者に対し、実際に飼育・治療している様子が分かるよう写真や動画を積極的に更新するよう求めているほか、支援者が問い合わせできるよう連絡先の明記を呼びかけている。

担当者は「CFは、誰もがやりたいことを実現できる世の中を作るひとつのツール。支援金がどう使われたのかインターネット上で分かり、応援してよかったと実感もできる」と意義を強調。「支援者が不利益を被ることのないよう審査に力を入れていきたい」と話す。

支援者側で見極めることも必要

スマートフォンやインターネット関連の事件やトラブルに詳しい、ITジャーナリストで成蹊大学の高橋暁子客員教授は、今回の事件について「CFをめぐり実際に逮捕される事件に発展するのは珍しく、今後の抑止力になるのでは」と推察。一方で、支援する側の見極めも大切だとし、「SNS(交流サイト)やホームページをチェックし、(実行者に)質問するなどやり取りをして信用できるか確認することが大切。求めている支援金の金額が妥当かも気を付けた方がよい」と指摘する。

消費者庁が令和2年9月に行った委託調査によると、回答した計520人のうち、CFの利用に関してトラブルにあったり困ったりしたことがある人は約26%を占めた。具体的には「リターン(返礼品)の提供時期が遅れた」や「活動報告がされない、報告頻度が少ない」といった内容が多かった。

ただ、トラブルがあっても、約4割が「問い合わせや相談をしなかった」と回答。国民生活センターの担当者は「支援前に実行者の情報をしっかり確認してほしい。実行者に悪意がなくても支援金が集まりすぎた場合、個別の返礼が遅れたり難しくなったりするケースもある」と注意を呼びかけている。

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