夏山シーズン前に遭難多発 生死分ける登山届の存在

中国地方の最高峰・大山。今年は遭難が相次いでいる=令和3年11月
中国地方の最高峰・大山。今年は遭難が相次いでいる=令和3年11月

中国地方の最高峰・大山(1729メートル)と鳥取・兵庫県境にまたがる氷ノ山(ひょうのせん)(1510メートル)で今年、山岳遭難が多発している。大山ではすでに3人が死亡する異常事態。いずれも県外在住の登山者で、登山届は提出されていなかった。登山者が増加する夏山シーズン開幕を控え鳥取県警は、万一の際に捜索の手掛かりとなる登山届の提出呼びかけを強化。届の装備品チェック欄を活用した事故抑止効果にも期待している。

GWにも4件「ハイペース」

ゴールデンウイーク(GW)の5月初め、大山と氷ノ山でそれぞれ遭難が相次いだ。4日には氷ノ山で大阪の高校生2人が雪の残る下りの斜面で下山できなくなり県警に救助を要請し、2人は県防災ヘリで無事救助された。6日には大山で鳥取の会社員2人の行方が分からなくなったが、翌7日に2人とも自力で下山した。道に迷ったのが原因だった。

このほか三徳山(みとくさん)(900メートル=三朝(みささ)町)と久松山(きゅうしょうざん)(263メートル=鳥取市)でも各1件、救助要請があり、GW明け(9日)現在の今年の県内山岳遭難事故は計12件に上っている。

「近年では年間37件と最も遭難が多かった昨年と同じくらいのハイペース。事故が多発する夏山シーズン前だが、すでに例年の半分近くに達している。しかも例年の死者はキノコ採りに山中に入った高齢者らが道に迷って亡くなるケースが多いが、今年死亡した3人はいずれも本格的な山岳遭難で、この数の多さは異常だ」。鳥取県警地域課次席の山根利之警部はこう話し、危機感を募らせる。

氷ノ山の鳥取県側の登山口(氷ノ越コース)。ゴールデンウイーク中も所々に雪が残っていた=令和4年5月
氷ノ山の鳥取県側の登山口(氷ノ越コース)。ゴールデンウイーク中も所々に雪が残っていた=令和4年5月

アイゼンも利かず滑落

積雪2メートル近くの雪深い大山で2月6日、神戸市の50歳男性が凍死する遭難事故が発生した。男性は同じ山岳クラブの兵庫県の60代男性と5日朝に大山に入ったが同日夜になっても帰らず、翌日、救助隊が60代男性を発見したが、50歳男性は8合目あたりで死亡しているのが見つかった。下山中に滑落し自力復帰したものの、疲労で歩行困難となったのが原因だった。

4月2日には、岡山県の57歳男性と広島県の60歳男性の2人が8合目付近で相次いで足を滑らせ、約700メートル滑落した。登山道は凍結したアイスバーン状態で、2人は滑り止めの登山用具アイゼンを装着していたにもかかわらず、事故に遭った。

鳥取県警のまとめによると、今年の遭難12件のうち大山は6件、氷ノ山では3件発生しているが、登山届が提出されていたのは4件だけ。大山の遭難者9人のうち7人、氷ノ山は4人すべてが県外在住者だった。

また、死亡した3人はいずれも一定の登山経験があり、装備に不足はなかったという。ただ、過去の事故を分析すると、登山届提出の有無が遭難者救出のかぎになることが一定程度あるようだ。

2月6日に氷ノ山で発生した遭難は、兵庫県の外国籍の男性(49)が「登山届の予定時刻になっても下山しない」と地元の山岳救助隊から連絡があり、捜索の結果、翌日山中で救助された。

山根次席は「いざ捜索となったとき、登山ルートや装備品、登山経験が記載された登山届が重要になる」と強調。これらの記載が、捜索を絞り込むための重要なデータとなる。また登山届提出の際の装備品などの記入が、登山者にとって入山前の備えの確認となる。

春山シーズンを前に、鳥取県警は毎年、登山客に登山届の提出などを呼びかけている(同県警提供)
春山シーズンを前に、鳥取県警は毎年、登山客に登山届の提出などを呼びかけている(同県警提供)

原因トップは疲労・病気

大山は6月5日の夏山開きを境に、本格的な登山シーズンに突入する。夏山登山道は、入り口から頂上まで標高差約930メートル、距離は約3キロある。5~11月の無雪期間の大山入山者は6万人程度とされ、地元の鳥取、島根両県以外では、中国地方の岡山、広島両県。近畿の兵庫県や大阪府からの登山客が目立つ。

県警は「県外の登山客の中には、夜通し運転して大山にきて、少し仮眠して登山という人もいる。病気や疲労で進めなくなり救助を要請するケースが少なくない」と分析する。

実際、大山での遭難は平成29年から令和3年までの5年間で84件発生し、その原因は疲労・病気が25件と最も多く、転倒22件、道迷い14件、転落・滑落10件が目立つ。遭難者の居住地別では、地元の鳥取(27人)、島根(9人)以外では、広島、岡山両県が各12人、大阪府と兵庫県が各5人と、登山者数の多さと比例している。

鳥取県警のホームページに掲載されている登山届(表面)。コースや装備などを記入する。ネット版もあり簡単に提出できる
鳥取県警のホームページに掲載されている登山届(表面)。コースや装備などを記入する。ネット版もあり簡単に提出できる

では、いざ遭難したらどうするか。県警によると、「携帯電話は必需品。遭難したと思ったら、携帯でまず110番。迷ったり滑落したりした場合には『〇合目付近』、場所が分からない場合には『〇〇〇が見える』などと伝え、通報後は電池を長持ちさせるために携帯電話を使用しない。食料は一気に食べない、寒いときは眠らないなどを心掛け、救助を待つ」という。

5年間の遭難84件のうち、登山届が提出されていたのは31件と提出率は約37%にとどまっている。山根次席は「登山届は鳥取県警のホームページからインターネット経由で簡単に出せる。必ず提出してほしい」と呼びかけた。(松田則章)

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