今月15日に98歳で亡くなった建築家の池田武邦(たけくに)さんは、日本初の超高層建築「霞が関ビル」をはじめ「京王プラザホテル」や「新宿三井ビル」の設計を手掛けた。超高層時代を切り開いた池田さんに転機が訪れたのは、ある冬の日である。
▼地上50階にある事務所で仕事を終え、外に出ると大雪が降っていた。空調の効いた部屋で、天候の変化に気づかなかったのがショックだった。自然との共生を重視する新たな手法は、「筑波研究学園都市」や「長崎オランダ村」「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)で結実する。
▼輝かしい実績にもかかわらず、本人は作家の梯(かけはし)久美子さんのインタビューでこう語っている。「矢矧(やはぎ)に乗っていた一年間に比べると、戦後にやったことなんか、本当に大したことないんです」(『昭和二十年夏、僕は兵士だった』)。