ビジネスパーソンの必読書

情報工場「SERENDIP」編集部

『映画を早送りで観る人たち』
『映画を早送りで観る人たち』

五月病、梅雨入りなど、5月は少し気がめいるようなキーワードで語られることも多い。一方で五月晴れという言葉もある。明るい方を向いていきたい。

鑑賞より消費

『映画を早送りで観(み)る人たち』稲田豊史著(光文社新書・990円)

ネット配信される映画やドラマを倍速にしたり、情景描写などを飛ばしたりして視聴する人が増えているそうだ。その理由や背景を分析。

著者によると、「倍速視聴」が蔓延(まんえん)する背景の一つに、時間のコストパフォーマンスを求める人が増えたことがある。情報や娯楽があふれる現代では、話題の映画を観て友人との会話についていくだけでも大変だ。いきおい、最低限の内容を把握するために倍速視聴に走ることになる。

本書では、実際に倍速視聴の習慣のある人の声も拾っている。その中で衝撃的だったのが、映画で「心が揺さぶられるのが嫌」という発言だ。だから、早送りして「泣く映画」かどうか先に確かめるのだという。

映像作品を「鑑賞」するのではなく、情報として「消費」する傾向が出てきているとも著者はみる。

視聴方法や意識が多様化しているとも考えられるが、根底にどんな問題が隠されているかを見抜くことが大切なのだろう。

論理的に判断する

『刑法的思考のすすめ』仲道祐樹著(大和書房・1870円)

『刑法的思考のすすめ』
『刑法的思考のすすめ』

刑事裁判で有罪無罪や量刑を判断する際に使われる思考を「刑法的思考」と名付け、実際の事件をモデルにした、あるいは架空の事案を挙げながらそのプロセスを解説。論理的思考の粋ともいえる刑法学の魅力を伝えている。

例えば、ある交通事故。Aが運転し、Bが助手席に座った自動車がCをはねてしまった。Cは意識を失ったまま自動車の屋根にはね上げられたがAもBも気づかず、Aは運転を続けた。するとCの体が次第に屋根からずれ始め、開け放たれた助手席側の窓に腕がだらんと落ちてきた。驚いたBは思わずその腕をひっぱり、Cは道路にたたきつけられて死亡した。

この場合、Cの死亡はAとBどちらの罪になるのか。こうした因果関係を判断する基準は、実は刑法には書いていない。そこで刑法的思考の出番となる。

その基準と、その基準がなぜ正しいかという根拠を考えるのが刑法的思考の肝だという。ビジネスにも応用可能な、頭をフル回転させる方法を学べる一冊だ。

公開情報を生かす

『ベリングキャット デジタルハンター、国家の噓を暴く』エリオット・ヒギンズ著、安原和見訳(筑摩書房・2090円)

『ベリングキャット』
『ベリングキャット』

インターネット上に公開された情報を分析し、国家による虚偽のプロパガンダや捏造(ねつぞう)を暴く調査報道ユニット「ベリングキャット」。その活動実態を創始者自らが詳細に語る。

ベリングキャット誕生のきっかけは2014年のマレーシア航空機撃墜事件。ウクライナ東部上空で旅客機が墜落、298人の犠牲者が出た事件で、ウクライナ軍の仕業とするロシアの虚偽をいち早く暴いたのが著者らだった。その協力者のネットワークが母体だ。

ベリングキャットはハッカー集団ではない。使用するのは、衛星画像やSNS(交流サイト)の書き込みなど、誰でも見られるオープンデータだ。膨大な画像や書き込みを一つ一つ精査するなど地道な検証作業の末、揺るぎない真実を明らかにする。

SNSなどネット上の情報は負の側面が強調されがちだが、彼らの成果からデジタルデータのあるべき使い方のヒントを見いだせるのではないだろうか。

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