朝晴れエッセー

初めて父と握手・5月15日

母は私が42歳のとき、くも膜下出血で亡くなっていたので、子育て中の帰省は、いつも慌ただしくゆっくりもできずに帰っていた。

子離れ後の帰省は、父と近場の温泉へ行ったりもした。また、趣味で俳句をたしなんでいた父を間近に見て、私も自然と俳句を趣味とするようになった。

道端の草木の名前、句碑などを教わり気ままな散策を楽しんだこともあった。黄金に揺れる一面の小判草(こばんそう)の風景に目を見張ったことも。ただの雑草と思っていた小判草も、一面となるとこんなに感動するのかと、小判草の名を父から教わる。

そんな帰省もあっという間に帰る日が来る。見送りは、元気な頃は駅のホームまで、年を追うごとに門前から玄関先へと変わっていった。

ある年の帰り際、「また来いや」と言いつつ手を差し出してきたのである。反射的に私も手を差し出した。父と握手して一瞬驚いた。

父の掌(てのひら)がこんなに温かく柔らかいとは思ってもいなかったからだ。ごつごつしているとの先入観があったからだと思う。この感覚は今も残っている。

初めての一度きりの握手だった。

大角泰子(80) 大阪府吹田市

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