古典個展

プーチン大統領の「暗さ」 大阪大名誉教授 加地伸行

加地伸行氏(森本幸一撮影)
加地伸行氏(森本幸一撮影)

ロシアのウクライナ侵略が続き、もう3カ月近い。

しかも、これから先の決着がどうなってゆくのか、だれにも分からない。

だが、確実に分かることが1つある。すなわち、敗戦とされる側の悔しさだ。そこには理も非もない。

老生、思い出す。日本の敗戦の日、すなわち昭和20(1945)年8月15日、ラジオを通じての終戦の詔勅を拝聴した。年齢、わずか9歳。しかし、日本必勝を信じていた少年にとって、それはこの上ない大きなできごとであった。

敗戦―このような屈辱は、耐え難い。まして侵略されたウクライナにとって、ロシアへの降伏など、ありえない選択ではないか。もちろん、降伏しないとき、今よりももっと多くの犠牲者が出ることであろう。逆に、降伏すれば犠牲者は少なくなるであろうが、反ロシアのウクライナ人は、徹底的に殺されてゆくであろう。のみならず、今後、愛国ウクライナ人は1人残らず、さまざまな虐待を受ける可能性が強い。そしてウクライナは、ロシアの属国扱いとなってゆくことであろう。

これは他人事(ひとごと)ではない。ある日、突如、ロシア軍が北海道を侵略するかもしれないのだ。

ウクライナ人はいま、生か死か―という難問の前に立っている。しかも、その難問の上に、さらなる難問がある。それはプーチン(敬称略)という人物の性格である。

プーチンは実質的には独裁者である。もちろん現代世界に独裁者がいる国家はいくつもある。しかしそれらの大半は、古典的独裁者すなわち物欲亡者であり、単純な連中である。

もっとも、伝えられるところでは、プーチンも宮殿のような別荘を所有しているらしいが、真偽は未詳。

そうした物欲問題は別として、プーチンの周辺には、一種の異様さが漂っている。

それは何であろうか。

プーチンは、秘密警察のような諜報機関出身であり、彼の周辺の重要関係者にもその出身者が多いと伝えられている。

諜報機関―今の日本に、これはない。しかし外国映画などにはそれを舞台とした作品が今もよく作られている。そういう作りものは別として、日本を除いて世界の国々では実際に、そうした機関を活動させている。

一方、ロシアでは、スターリンのソ連時代以来、秘密警察が権力者に果たした役割は大きい。プーチンも同様であろう。あの暗さと不気味さとが示す彼の姿には、一般的な倫理や法制度を超えたものを感じさせる。少なくとも老生には。

ときどき、プーチンが外国首脳と2人で面談する。テレビ等(など)が部屋を映しているが、何とも長細いテーブル。これはプーチンの偽神秘性を超えた滑稽感を生んでいるが、それが平気の神経の持ち主ということを忘れてはなるまい。

暗い。夜のように暗い。

『詩経』風雨に曰(いわ)く、風雨〔が激しく暗く〕晦(よる)のごとし〔戦争みたいだ〕。鶏(とり)鳴き已(や)まず、と。 (かじ のぶゆき)

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