講習7時間で船長に 知床事故、免許制度の在り方問う声も

北海道の知床半島沖で観光船が沈没した事故をめぐり、小型旅客船(20トン未満)の船長になるための免許制度の在り方を問う声が上がっている。プレジャーボートなどを操縦できる小型船舶の免許があれば、7時間の講習を受けるだけで、乗客の人命をあずかる旅客船を操縦することができるためだ。船長に求められる資質をどう担保すべきか。国土交通省の有識者検討委員会では、船員の技量向上や運航する海域の知識も論点となっている。(大竹直樹)

「他の事業者だったら船長になれなかった可能性がある」。国交省の幹部はこう打ち明ける。沈没した観光船「KAZU I(カズ・ワン)」の豊田徳幸(のりゆき)船長(54)=行方不明=は令和2年、甲板員として運航会社「知床遊覧船」に採用された。船長になるには通常3年程度の経験を積むが、同社の桂田精一社長(58)は約1年で船長に昇格させた。他のベテラン船長から「センスがある」と評価されたためという。

ただ、豊田船長は海洋での経験不足が指摘されている。知床は地元漁師らも手を焼くほど航行の難しい海域。豊田船長が、周辺の暗礁や気象の変化など知床特有の事情にどこまで精通していたのか疑問が残る。

大規模事故や危機管理に詳しい日大の福田充教授は「航行の安全管理の観点から、営業用の小型船舶の免許制度はもっと厳しくあるべきでは」と指摘する。

小型旅客船の操縦には、航行できる範囲によって1級か2級の小型船舶操縦士免許と、タクシーなどの2種免許に相当する「特定操縦免許」が必要になる。しかし、2種免許のような学科試験や実技試験はない。

一般財団法人日本船舶職員養成協会によると、特定操縦免許の取得には、海難発生時の措置や救命設備に関する安全講習を7時間受ける。講習は1日だけだ。

カーテンが閉められ静まり返る「知床遊覧船」の事務所=14日午後、北海道斜里町
カーテンが閉められ静まり返る「知床遊覧船」の事務所=14日午後、北海道斜里町

検討委では委員から「特定操縦免許はもっと(要件を)強化すべきなのではないか」と、免許制度の在り方を問う声も上がった。

20トン以上の大型船舶では「海技士」の免許が必要。職種などによっても異なるが、海事教育機関で実習や経験を積まなければならない。電車の運転士も、駅員や車掌を数年経験した後、養成所などで約10カ月間の学科や技能講習を受け、国家試験に合格する必要がある。「数年かけて適性を見極める」(鉄道ジャーナリストの梅原淳氏)ためだ。

一方、小型旅客船に必要な特定操縦免許では、運航する海域に関する知識や経験は特に要件には含まれておらず、今回のように事業者によるあいまいな基準を許す背景にもなっている。

海難事故に詳しい田川俊一弁護士は「小型船舶の免許は船舶を安全に運航できるかどうかで与えられる。客が乗っているから厳しくするという関係ではない」と慎重だが、海事代理士の春山勝氏は「2種免許に比べると資格取得のハードルは低い印象がある。要件を見直すべきだ」と話す。

検討委では「2階建ての免許制度を検討したらどうか」という提言もあった。全国の免許に加え海域特有の事情を考慮した地域別の免許を設けるとの考えだ。

船舶の大きさにかかわらず、船長が人命をあずかっていることに変わりはない。海域ごとの実地教育や技量向上に向けた仕組みだけでなく、免許制度の在り方についても議論すべき時期が来ているといえる。

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