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現実主義者のソ連「封じ込め政策」 ジョージ・F・ケナン著「アメリカ外交50年」

大学で外交史のテキストなどとして読み継がれている「アメリカ外交50年」(岩波現代文庫)
大学で外交史のテキストなどとして読み継がれている「アメリカ外交50年」(岩波現代文庫)

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、今後の対露関係をめぐる米国内の議論で「封じ込め」という言葉が聞かれるようになった。ソ連専門の米外交官、ジョージ・F・ケナン(1904~2005年)が1947年、匿名「X」として米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に寄稿した論文の中で、「封じ込め政策」という言葉を使い、対外膨張傾向の強いソ連指導部の行動原理とその対応策を提示した。米の冷戦期対ソ外交に影響を与えた論考だ。

今回紹介する『アメリカ外交50年』はX論文以外に、米西戦争から第二次世界大戦に至る米外交をテーマにした大学での連続講演などを収録。原著は米国内の大学などで外交史のテキストとして使用され、日本でもいまなお若い読者を獲得し続けている。

「ソヴェトの行動の源泉」という論文の中で、ケナンはどんな議論を展開したのか。まず歴史的背景をじっくり分析した上で、ソ連指導部の権力基盤には、資本主義と社会主義との間に「内在的敵対関係」があるとの考えが浸透し、独裁政権を存続させるため「外国が執念深い敵意をいだいているという半神話」を育んでいると指摘。ソ連外交の特徴を「辛抱強い首尾一貫性」ととらえ、米側は「膨脹傾向に対する長期の、辛抱強い、しかも確固として注意深い封じ込め(コンテインメント)でなければならない」と強調する。

一方で、その政策には「脅迫とか怒号とか大袈裟な身振りで外面的『強硬さ』をみせること」などは不要だとも指摘。というのも、ソ連指導部は「政治における力は憤激や自制心の喪失などから決してうまれでてくるものでないことを非常によく知っている」からだ。円滑な取引には「威信をあまりそこなわない」ことが肝要だと説く。

気になるのはソ連側の気質として、戦線での退却に「心が痛む」ことはなく、限られた時間内での目標達成にも心理的に拘束されない、と指摘するくだりだ。ウクライナ侵攻での首都キーウ(キエフ)からのロシア軍の退却は「大失敗」や「大誤算」とは異なる受け止めなのだろうか。

同書で米外交の伝統を現実感覚を欠いた「法律家的・道徳家的アプローチ」と批判した〝現実主義者〟ケナン。その議論は今も論争的だが、米露関係を読み解くとともに、日本の同盟相手である米国の行動原理を考察する上でも有益だ。

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