ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義的な動きなど、混沌(こんとん)とする国際情勢の中、関西の若手地方議員らが「国を守る」ことを主眼とした世論喚起に力を入れている。根底にあるのは、国がなければ、そもそも地方は存在しないとの強い思いだ。「地方議員の本分ではない」との批判もあるが、ロシアのウクライナ侵攻によって中国の問題は関心が高く、市民の理解は深まりつつあるという。
「関心は私への偏見でもいい」
「今はおしゃれでかわいい服がすごく安い価格で買えますよね。でも、それはウイグル人が労働を強制されている工場で作られた製品かもしれないんです」
4月上旬、大阪・ミナミの繁華街。大阪府泉南市の添田詩織市議(33)が通行人らに訴えた。中国による人権侵害が指摘される新疆(しんきょう)ウイグル自治区産の「新疆綿」を使用していると疑われたアパレルメーカー名を挙げると、足を止める人の姿が見られた。
この日に行われていたのは、中国の人権弾圧に抗議する集会。日本在住のウイグル人や「ウイグルを応援する全国地方議員の会」のメンバーらが参加し、添田氏は同会の代表理事を務める。
異色の経歴で「DJ議員」としても知られる添田氏。タトゥー(入れ墨)を入れていることも公表しており、「私に対する偏見からウイグル問題を知ってもらっても構わない」との覚悟で臨む。
イスラム教徒のウイグル人が住む中国西部の同自治区では、近年、中国当局による強制収容や拷問などが行われているとの報告が相次ぎ、米政府が「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定。収容先の施設で組織的な性的暴行があったと証言するウイグル人女性もいる。
海外で暮らすウイグル人が現地で拘束されたり、中国へ強制送還されたりするケースも。日本に留学するウイグル人の大学生らも就労できなければ、ビザ(査証)の関係で帰国せざるを得ないが、待ち受けているのは収容の恐怖だ。
「新型コロナウイルス禍で就職がままならない留学生が多い。雇ってもらえる企業を探すのも地方議員の役目だ」と添田氏。「みすみす帰国させてウイグル人の身を危険にさらしては、申し訳が立たない」。
ウイグル問題に積極的に取り組む一方、有権者から「地元と関係があるのか」と批判気味に言われることも少なくないという。
添田氏は地元のまちづくりや課題解決に注力した上での活動だとして「ウイグルに関心を寄せることは中国の侵略・脅威に対抗する意思表示。国防は最大の福祉であり、市民や国民の利益に資する」と強調。ウクライナ侵攻を受け、理解は広がりつつあると語った。
台湾との交流は中国への牽制
「親台派」で知られる神戸市の上畠寛弘(のりひろ)市議(34)も世論喚起に注力する地方議員の一人。神奈川県鎌倉市議時代にも、台湾の国際機関への正式加盟の支援を求める意見書や台湾出身者の戸籍表記を「中国」から改めさせる意見書採択を主導した。
昨年11月に神戸市で開かれた日台地方議員の友好関係を深める「日台交流サミット」でも実務面を取り仕切り、「日台関係基本法」の制定などを提言した「神戸宣言」を採択に導いた。上畠氏は「台湾との草の根交流を深めることは、中国への牽制(けんせい)になる」とみる。
神戸市には、三菱重工業や川崎重工業など防衛産業に関わる工場が立地するが、防衛装備品の需要は国内では自衛隊に限られ、受注規模や利益率も決して高くない。
上畠氏は、地場産業活性化の観点から「自由と民主主義の価値観を共有する台湾や米国などに輸出できないか」と提言する。量産効果として開発コストの削減が期待できるほか、企業が潤えば、地元の雇用創出にもつながるというわけだ。
「国民に最も近いのは基礎自治体の議員。郷土のためにできることはたくさんある」とも主張。「神戸市も含めて日本だと改めて認識しておきたい」と力を込めた。(矢田幸己)