東京の地下鉄駅近くの長屋住まいだった林家彦六(正蔵)は、寄席に通うのに定期券を利用していた。仕事以外では切符を買った。定期券の割引は仕事をする人のため、との理屈である。期限切れのJR無料パスで新幹線にただ乗りしていた元参院議員に教えたい。
▼自宅まで新聞記者が取材に来ると、乗ってきた車を弟子に調べさせた。ハイヤーなら運転手に「祝儀袋」を手渡す。運転手が新聞社の社員の場合、現金は贈賄になるからと名入りの手拭いを「名刺がわり」に渡した(『昭和の藝人(げいにん) 千夜一夜』矢野誠一著)。
▼昔も今もこれほど金銭に潔癖な人は少ないだろう。それでも自分の預金口座に役所から覚えのない大金が振り込まれれば、問い合わせるのが普通である。間違いと分かれば返金する。役所からは「お詫(わ)びがわり」の品物を渡されて一件落着となるはずが、そうはならなかった。