20年来の空き地、廃棄芝生とアートでリニューアル 地域の憩いの場に

20年以上空き地だった土地は、アートをテーマとした公園に生まれ変わった=大阪市住之江区(鳥越瑞絵撮影)
20年以上空き地だった土地は、アートをテーマとした公園に生まれ変わった=大阪市住之江区(鳥越瑞絵撮影)

大阪市の湾岸部、住之江区にある北加賀屋地区の住宅街で20年以上放置されていた空き地が昨夏、公園に生まれ変わった。小規模、変形の土地で利用しにくく、長年放置されたことで雑草の繁茂など荒れ地となっていたが、地元企業が「アート」をテーマに整備。新たな交流拠点になったほか、周辺の空き家解消にもつながったという。各地で空き地の増加が課題となっているなか、民間主導の取り組みとして注目される。

空き地対策

公園は大阪メトロ・北加賀屋駅の北側約100メートル、住宅が密集する一角に完成。緑の芝生が映える敷地内には、地域のアート構想を象徴するモニュメントが立つ。

「明るくなってよかった」。住民からは歓迎の声があがる。近隣の保育園児たちの散歩コースにもなるなど憩いの場となったこの公園は、かつては生活環境への悪影響が懸念されていた空き地だった。

面積は約160平方メートルと小さいうえ、周りを住宅に囲まれた「凸」の形をしており、利用しにくかったという。周辺は細い路地に囲まれ駐車場も難しく、借り手がつかないまま空き地の状態が続いていた。長年の放置で雑草が生い茂り、土地を囲む鋼板製の仮塀は、景観を損ねているとの指摘もあった。

「地区にはもともと小規模な住居が多く、家と家に挟まれた空き地は利用されにくい。また、鋼板塀で囲まれて見通しが悪く、治安面の不安もあった」。空き地を所有し、公園への再生を手がけた不動産会社、千島土地(同区)の地域創生・社会貢献事業部、宇野好美さんは話す。

大阪港につながる木津川沿いにある同地区は、大正時代から昭和の高度経済成長期まで造船業で栄え、往時は約2万人が働いていたという。産業構造の変化に伴い造船所の転出が進むと、空き工場や空き家、空き地が増加。空き物件の活用は地域の課題だった。

芝生を再利用

今回の公園プロジェクトが動き出したのは、令和2年秋に大阪・船場で開催されたイベント「高麗橋street park」がきっかけ。市中心部の一部を通行止めにし、天然の芝生を敷いて1日限りの緑空間をつくる社会実験だった。

イベント終了後、芝生約350平方メートルは廃棄予定だったが「もったいない。うちの空き地に活用したい」と考えた同部部長の星野幸世さんが主催者から譲り受けた。社員有志で、芝生を使った公園の整備プロジェクトを始めた。

同社は平成16年から地区内の造船所や倉庫の跡地を芸術作品の展示場に再活用するなどアートを切り口とした活性化を進めており、公園もアートの展示などでも活用できる場所として整備することにした。

もらい受けた芝生のほか、樹木や庭石は同社の社長宅から運び再利用を推進。北加賀屋1丁目にある公園として「キタイチパーク」と名付け、昨年6月に完成した。オープン後すぐに、空き家だった近隣物件の入居が決まるなど周辺にも好影響があったという。

今後は、公園内でのイベント開催などを検討する。次の空き地整備計画もあるといい「地域の声に耳を傾け、住民とともに公園を育てていきたい」としている。

安全なまちに

高齢化や人口減少で全国的に空き地が増加している。国土交通省の土地基本調査(30年)によると、個人所有の宅地などのうち、空き地となっているのは1364平方キロメートル。大阪市の約6倍に相当する面積で、前回調査(25年)から約1・4倍に増えた。

空き地の放置は、雑草の繁茂やごみの不法投棄など地域環境の悪化につながる可能性もある。同省が自治体に行ったアンケートでは、約6割が今後10年間で管理状況の悪化する空き地面積が増えると想定。対策が急務で、各地で取り組みが進む。

市街地では空き地や空き家が点在し、利用しにくい状況が目立つとされる。山形県鶴岡市は所有者の違う空き地や空き家を一体的に再開発する事業を進める。建設会社や司法書士などの専門家と立ち上げたNPO法人が調整を担う。

佐賀市は中心市街地の空き地を借り、コンテナを用いた図書館などを整備して市民に開放。小休憩スペースとしても親しまれているという。

一方、徳島県鳴門市や兵庫県淡路市は、ふるさと納税の返礼品として「空き地・空き家の管理」の代行を提供するなど自治体も工夫をこらす。

空き家、空き地問題に詳しい近畿大学の寺川政司准教授は「空き地や未利用地を実際に動かすには、地域の特性を生かしつつ、安全なまちをつくっていこうという住民の理解が必要。個別でやっていては進まない。地域の実践事例を増やしていくべき段階にあると思う」と指摘している。(上岡由美)

目標11「住み続けられるまちづくりを」 すべての人々が、安全で使いやすい緑地や公共スペースを利用できるようにする。持続可能な居住を計画、管理する能力を強化する。

目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」 持続可能な開発目標に向け、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを推進する。

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