原因が不明の小児の急性肝炎が欧米を中心に相次いで確認され、日本国内でも昨年10月以降、13日までに計12例が報告された。海外では咽頭結膜熱(プール熱)などを引き起こす「アデノウイルス」の関連が疑われ、世界保健機関(WHO)が各国の状況を情報収集。国立感染症研究所は「現時点で日本国内でアデノウイルス流行の兆候はみられていないが、原因と想定した場合には手洗いや飛沫(ひまつ)感染対策が有効になる」としている。
肝炎は肝臓に炎症が起きて細胞が破壊され、機能が低下する。急性肝炎ではA~E型の5種類ある肝炎ウイルスの感染が原因になることが多い。
WHOによると、今回の小児の急性肝炎は4月21日時点で欧州と米国の計12カ国から生後1カ月~16歳の169人について症例報告があり、約1割で肝移植が必要とされ、死亡例もあった。
いずれもA~E型の肝炎ウイルスは検出されず、原因は不明のままだ。WHOは暫定的な措置として、これらの症例に当てはまる昨年10月以降のケースについて各国に報告を求めており、確認数は増加。欧州疾病予防管理センター(ECDC)が今月11日に公表したまとめなどでは、27カ国で約450人となった。
このような状況で原因として有力視されるのがアデノウイルスの感染だ。アデノウイルスが健康な子供に重度の肝炎を引き起こすことはまれとされてきたが、肝炎の発症数が計163人(同3日時点)だった英国では、検査した126人のうち約7割の91人が少なくとも陽性だったという。
英国の一部地域では新型コロナウイルス流行当初に子供らのアデノウイルス感染が激減したものの、昨年末ごろから1~4歳では流行前を上回るペースで感染が拡大。英国の研究チームは仮説として、アデノウイルスに対して免疫を持たない子供が増えたことや新型コロナといった別の感染症が重なったことなどを挙げている。
一方、日本国内で厚生労働省に報告があった昨年10月以降の小児の急性肝炎は12人で、1人がアデノウイルスの検査で陽性。ただ、感染したアデノウイルスのタイプは英国で確認されたものとは型が異なる。
京都大の西浦博教授らのチームは、小児の急性肝炎と新型コロナウイルスのオミクロン株感染の関連を分析。39カ国のデータを調べ、小児の肝炎の報告があった国ではオミクロン株の累積感染者が多かったとした。西浦氏は「3歳以下の小児を中心に新型コロナ感染が先行し、その後にアデノウイルス感染が起きることによってリスクが高まる可能性が高いと考えられる。小児肝炎の予防のためにもオミクロン株の流行制御を慎重に検討することが望ましい」としている。
感染研の斎藤智也・感染症危機管理研究センター長はアデノウイルスが原因だったとした場合、「新型コロナの流行で小児がアデノウイルスにさらされる時期が遅くなり、免疫反応が激しくなっているという仮説がある」と指摘。「アデノウイルスには手洗いやマスクの着用といった感染対策が有効」と話している。