北海道の知床半島沖で観光船が沈没した事故では、杜撰(ずさん)な運航実態が次々と明らかになった。
波浪注意報が出される中、あり得ない「条件付き運航」を指示した運航会社の社長には操船実績がなく、船長も海洋での経験が浅かった。
事務所の無線用アンテナは破損しており衛星携帯電話は故障で修理中だった。事故時は船長が乗客の携帯電話を借りて救助を要請した。事故船舶は昨年、2度の事故を起こし国土交通省の行政指導を受けていた。
運航会社を責めるべきは当然だが、実態を見逃し、運航を許可してきた国交省などの無為無策ぶりにも怒りがある。
斉藤鉄夫国交相は運航会社の社長を「当事者意識の欠如、責任感の欠如だと思う」と批判したが、同じ言葉は、国交省にも向けられるべきだろう。
事故船舶は事故の3日前、船舶安全法に基づく日本小型船舶検査機構の中間検査を受けていた。2日前には網走海上保安署の安全点検を受け、いずれも「問題なし」とされていた。一体、何のための検査だったのか、無能を疑われても仕方あるまい。
日本小型船舶検査機構は国に代わって検査を担う特別民間法人で、理事長は国交省OBの「天下り指定席」なのだという。事故を防げない検査は、その構造に問題があるのか、法体系に不備があるのか、原因を早急に突きとめ、改善しなければならない。
国交省は11日、事故を受けて小型旅客船の安全対策や制度の見直しを議論する有識者検討委員会の初会合を開いた。運航事業者の参入審査のあり方や国の監査、検査の実効性を高める方策を議論し、海上運送法や船舶安全法の改正を視野に、7月中に中間とりまとめを公表するのだという。随分、悠長な話ではないか。
現地で事故対応中の渡辺猛之国交副大臣はオンラインで会合に参加し、「被害者家族から、事業者は安全を軽視していたのではないか、国の検査監督は適切だったのかとの指摘を受けている」と述べた。家族の指摘はもっともだが、国交省はまず、自身の無力に対する反省を述べるべきだった。
重大事故が起きなくては何も変わらない省庁の吞気(のんき)ぶりは、これまで何度もみてきた。それでも変わらないよりはいい。本気の取り組みをみせてほしい。