屋外で人と人との距離が十分取れる場合はマスクを外す。理にかなった対応である。気温の上がる夏場にかけ、国民全体でこうした意識を共有していきたい。
松野博一官房長官が会見で、新型コロナウイルス感染症対策としてのマスク着脱について示した見解のことだ。
松野氏は、「気温、湿度が高いときには熱中症のリスクが高くなる。マスクを外すことを推奨している」と述べた。
もともと日本では、マスクの着用は義務付けられていないが、衛生意識が高く着用が徹底されてきた。ワクチンの3回目接種率が全体で約55%と半数を超え、重症化リスクの高い65歳以上の高齢者に限れば、約88%と9割に迫ったことも発言の背景にある。
気温の上がる夏場を前に熱中症のリスクと感染リスクをてんびんにかけた場合、健康面から熱中症予防に軸足を置くのは当然だ。マスクを着用して命を危険にさらすようでは本末転倒である。
東京都医師会の尾崎治夫会長も「屋外で換気の良い場所はそれほど感染のリスクがない。屋外では着用を見直してもいいのでは」と述べた。日本医師会の中川俊男会長は熱中症予防のため、屋外で他人との距離があれば「外す対応を取ってほしい」と語っている。
ただ、屋外とはいえ、政府がマスクを外すことを推奨することで生じる問題も想定される。
気の緩みから、人の往来が激しい駅構内をはじめとする公共の場や屋内施設などでマスクをつけずに行動する人が出てくる懸念だ。マスク着用をめぐるトラブルが生じる可能性もある。
政府には、マスクの着脱に関する分かりやすい目安を国民に提示してもらいたい。
新規感染者数についても警戒が必要だ。厚生労働省に助言する専門家組織は、「全国的には減少傾向にあるが、昨夏のピークよりも高い状況が続いている」と指摘する。大型連休中の活発な人流で感染者数の上積みも予想される。
オミクロン株は、従来株に比べて感染力が強いとされ、主流だった「BA・1」から、より感染力が強い派生型「BA・2」にほぼ置き換わったとされる。マスクには手や指についたウイルスが口から体内に入ることを防止する効用もある。密でなければ屋外では外したいが、油断は禁物だ。