高齢運転者の技能検査スタート 内容は? 免許返納意識に影響も

警視庁が公開した運転技能検査のデモンストレーション=10日午後、東京都品川区(岩崎叶汰撮影)
警視庁が公開した運転技能検査のデモンストレーション=10日午後、東京都品川区(岩崎叶汰撮影)

一定の違反歴のある75歳以上の高齢運転者の免許更新時に義務付けられる運転技能検査が13日から始まった。合格するまで何度でも受検可能で、6カ月の受検期間が確保されるため、今年11月13日以降に更新期間が満了になる人が対象。更新に時間的余裕があることから、申し込みが本格化するのには、時間を要するとみられる。実際には、どのようなものなのか。

段差乗り上げで確認

東京・品川にある鮫洲運転免許試験場。警視庁は10日、模擬検査を公開した。

検査の所要時間はおよそ10分で、ならしも含めて約1500メートルを走行する。持ち点は100点。減点方式で合格点は70点以上だ。

高齢者役の警察官が車に乗り込み、まず「挑戦」したのが5センチ程度の段差乗り上げ。段差の前で一時停止し、強くアクセルを踏み込み、再び急ブレーキをかけて停車させるものだ。

ブレーキとアクセルを交互に使う、この項目が盛り込まれた背景には、「踏み間違いの事故が高齢者に増えていることがある」(担当者)という。乗り上げて停止する際、前輪の中心を1メートル以内に収めないと、20点の減点対象となる。

この段差の乗り上げのほか、指示速度による走行や一時停止、右左折、信号通過の項目がある。

一時停止の模擬検査も公開されたが、停止線を越えると、越えた距離に応じて10~20点の減点になる。ただ、1回の検査で不合格になっても、3550円の手数料さえ払えば、期間内に何度でも受検は可能だ。

警視庁運転者教育課の茅根弘幸課長は「緊張で失敗することもある。検査は、安全運転を心がけてもらうという狙いもある」と話している。

免許返納意識に影響も

運転技能検査の導入は高齢運転者らの返納に関する意識にも少なからず影響を与えるとみられている。ただ、返納後の移動手段の確保といった問題もあり、選択の難しさも浮かぶ。

「免許の返納を考えている人はいますか?」

東京都小平市にある新東京自動車教習所。4月15日に行われた高齢者講習に参加した石川清さん(75)は、教官の質問に小さく手を挙げた。

参加した75歳以上の高齢ドライバー10人のうち返納の意思を示したのは、石川さんを含めて2人だった。

18歳で免許を取得した石川さん。現在も買い物や家族を駅まで送り迎えするときにハンドルを握る。「車は自分にとって手足のような存在だね」と語る。

家族からは「免許を返納してほしい」といわれる。ただ、この日行われた認知機能検査や実車指導の内容に問題はなかった。「家族が心配しているので3年後の返納を考えていたが、踏ん切りがつくかどうか」と複雑な心境をのぞかせた。

奈良県橿原市の西谷道夫さん(88)は84歳で免許を返納。「返納したときはほっとした。周りから何か言われることも自分で悩むこともない」と語る。

近距離モビリティ「WHILL」に乗る西谷道夫さん=4月19日(WHILL提供)
近距離モビリティ「WHILL」に乗る西谷道夫さん=4月19日(WHILL提供)

ただ、返納により生活は大きく変わった。タクシーを呼ぶのは、費用がかさみ近所の目も気になった。これまでほとんど乗っていなかった自転車に乗り始めたが、転倒など危ない目にあった。シニアカー(電動カート)や電動アシスト3輪自転車など試行錯誤し、今年2月には、車いす型の電動モビリティ「WHILL(ウィル)」を購入した。

西谷さんは、自身の経験から「生きていく上で移動手段は必要だし、年齢で一律に返納というのは、苦しい」とも訴える。

13日からスタートした運転技能検査は、免許返納への意識にも影響を与えるとされ、新東京自動車教習所によると、不安の声も多く寄せられているという。

大井勇喜所長は「検査自体は一時停止や信号通過など基本的な内容であり、落とすためのものではない。自分の運転技量を認識することができ、意識の変化や違反の抑止力になる可能性もある」と話した。(橘川玲奈、本江希望)

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