食事は給食だけ 学校で洗濯…子供の貧困小説に

「人生と闘う子供たちを大人として応援したい」と話す作家の藤岡陽子さん=京都市西京区
「人生と闘う子供たちを大人として応援したい」と話す作家の藤岡陽子さん=京都市西京区

日本の子供の7人に1人が苦しんでいるといわれる貧困。作家、藤岡陽子さん(50)が刊行した新刊小説『空にピース』(幻冬舎)は、貧困地域にある学校現場を舞台に、子供の現状と教師の奮闘を見つめている。「子供のことを考えることは、日本の未来を考えること。使命感を持って書いた」と話す。(横山由紀子)

7人に1人の現実

一日の食事は給食だけ。家で洗濯をしてもらえず、学校の洗濯機で衣服を洗う。修学旅行に行くことができない…。首都圏と関西圏の貧困率の高い地域にある小、中学校で教師をしている2人の友人から、悲惨な子供の現状を聞いた藤岡さん。「子供の貧困が7分の1だと報道で知ってはいても、周囲にいないと遠い存在に思えてしまう。日本のもう一つの現実を知ってほしい」と筆を執った。

舞台は、経済的困窮や育児放棄などが目立つ東京都内の公立小学校。6年生を受け持つ澤木ひかりのクラスに、不登校の大河が久しぶりにやってきた。空腹に耐えられず、給食を食べに来たようだ。食事後は、保健室で異臭のする体をタオルで拭いて、衣服を洗濯してもらう。母親は仕事で家を空けたまま、祖父は入院しており、散乱した家で独りぼっちの大河は、常に空腹状態にあり、平均身長を大幅に下回っている。

見かねたひかりは家庭訪問し、一人でも食事が取れるように大河に袋ラーメンの作り方を伝授する。3度の食事を満足に取れない子供がいる現実。藤岡さんは、「自分の力で生きていけない乳幼児は優先的に福祉のケアが受けられるが、小学校高学年にもなると、福祉の網の目からこぼれ落ちてしまう」と訴える。

また、給食費が払えない家庭の児童に対して、教室でわざわざ指摘する子供もいる。家庭で親が発言したことが、子供の社会に現れてくる残酷で切ない場面だ。

自己責任ではない

厚生労働省によると現在、日本で働く外国人労働者は172万人と、過去最多を記録している。ひかりが受け持つクラスにも、ベトナム出身のグエンが在籍しており、日本語はおぼつかないが、勉学に対する姿勢は前向きだ。そんなグエンが、一家で夜逃げをしてしまった。前日、たどたどしい日本語で「先生にさよなら言いに来ました」と告げて去っていったグエン。この小学校では、不法滞在などで外国人一家が突然姿を消すことは珍しくなく、教師は深追いはしない。

「教師一人の力ではどうしようもない、無力感を突きつけられることもある」と藤岡さん。そんな中で、同僚教師や心理カウンセラー、医師らと連携しながら、子供のケアに当たる地道な活動が、貧困から救う一歩になる。親たちも決して、子供に愛情を注いでいないわけではない。生活に精いっぱいで、子供に手が回らない。自身が親の愛情を受けなかったため、子供の育て方が分からないとの現状もあるという。

「子供には、自業自得、自己責任という言葉は当てはまらない。ただただ、成長することだけを考えていればいい存在であるはず」。そんなメッセージを込めた。

大人としての使命

藤岡さんは大学生と中学生の子を持つ母親であり、子供をテーマにした小説がいくつかある。

2年前には、バスケットボールに奮闘する少女に光を当てた『跳べ、暁(あかつき)!』(ポプラ社)を刊行。昨年の『金の角(つの)持つ子どもたち』(集英社文庫)では、中学受験を題材に、孤独で過酷な勉学に勤しむ小学生の姿を描いた。読者の小学生から、「自分もがんばれる」と手紙が届いたという。

そして、「放置された子供の世界を書かないといけない」と奮起し、貧困がテーマの今作へと続いた。いわば子供3部作だ。

「未来を担ういろんな層の子供たちが、必死で人生と闘っている。そんな姿を大人として応援したい」

ふじおか・ようこ 昭和46年、京都市生まれ。同志社大学卒業。報知新聞社で勤務後、タンザニアに留学。平成18年「結い言」で北日本文学賞選奨受賞。21年『いつまでも白い羽根』でデビュー。著書に『トライアウト』『手のひらの音符』『晴れたらいいね』『きのうのオレンジ』など。現役の看護師でもある。


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