噺家(はなしか)になってすぐに先輩から言われたのは「しくじったら言い訳をするな。とにかく謝れ」。古典落語にも「頭さえ下げときゃ、そのうち小言は上を通っちまう」なんてセリフがあります。実際、そうやって謝ったこともあるし、弟子をとってからはそんな謝罪をされたこともしばしば。
自分が頭を下げてるときは「これだけ謝ってるんだからいいでしょう? もう勘弁してくださいな」なんて思っていました。求められなければ説明もせず、一切黙してただ時がたつのを待つ間、「なんでこの人こんなに怒ってるんだ?」と責任転嫁していたこともありました。それで許してもらえたこともあったけど、それは先方が根負けしただけ。上下関係が明確な芸人の世界において、人間関係をスムーズにさせるための一種の「型」なんでしょうね。
記者会見でよく土下座をする人がいます。最近でも水難事故を起こした知床の遊覧船会社社長が土下座してました。またコーチによる暴行事件を発端に、熊本の高校のサッカー部監督が保護者への説明会で土下座したそうです。一方的な土下座は謝罪する側の単なるパフォーマンスで、ある意味「圧力」です。土下座する人は今の時世に土下座が被害者と見ている者に与える猛烈なむなしさ、白々しさをもう少し想像すべきじゃないかな。謝罪対象者が求めているのは、包み隠さない事実の開示と説明と誠実さなんじゃないでしょうか? 単純に謝るときは、顔を伏せずにしっかりと相手の目を見た方がいいと思う。