鑑賞眼

魅力的なバディに満足 劇団☆新感線「神州無頼街」

町医者の秋津永流(福士蒼汰、奥)と〝口出し〟屋の草臥(宮野真守)=田中亜紀撮影
町医者の秋津永流(福士蒼汰、奥)と〝口出し〟屋の草臥(宮野真守)=田中亜紀撮影

日本が朝廷と幕府に二分された幕末、富士の裾野の無頼街を舞台に、さまざまな過去を持つ癖の強い人物が大暴れする。劇団☆新感線の座付き作家、中島かずき作、主宰のいのうえひでのり演出のいのうえ歌舞伎新作は、コロナ禍の延期を乗り越え、人気演目「髑髏城(どくろじょう)の七人」で育てられた外部の俳優がずらりと〝里帰り〟。個性の異なる魅力的なバディ、これでもかと畳みかけてくるロック調の楽曲、濃すぎるキャラクターに、「これぞ新感線」と満足感が味わえること間違いなしだ。

福士蒼汰演じる町医者の秋津永流(ながる)と、宮野真守演じる〝口出し〟屋の草臥(そうが)が、無頼の宿をまとめる身堂(みどう)一家を倒しに行くストーリーが主軸。大政奉還目前の時代、背景には勤皇派と佐幕派がうごめき、複雑に絡み合っていく。

不思議な力を使って悪の限りを尽くす身堂一家の長、蛇蝎(だかつ)は、これが新感線初めてとは思えない高嶋政宏。強烈なキャラクターだが、後半にいくにしたがって純情な「男のかわいらしさ」が見えてくるのがいい。

驚いたのは、蛇蝎の妻、麗波(うるは)の松雪泰子だ。5回目の新感線出演にして初めての悪役を、妖艶さだけでない、何にも動じない肝の据わった骨太な演技で説得力を持たせた。

この強烈な夫婦に立ち向かう若いバディの躍動も楽しみのひとつ。永流は青年らしい揺らぎを表現しながら、戦闘シーンでは目にもとまらぬ速さで殺陣を繰り出す。アクションが大好きという福士の面目躍如だ。

人殺しを生業とする家に生まれながら、医者として人を助けることに救いを見いだした永流が自身の過去に向き合う道程に、おせっかいにも寄り添う草臥。悩み深き永流の心をこじ開ける圧倒的な陽のパワーは、ムードメーカーの宮野にぴったりだ。安定感ある歌唱も手伝って、終演後には劇中劇「無頼街」を口ずさんでしまうほど。身堂一家の息子、凶介(木村了)と娘の揚羽(あげは、清水葉月)も、舞台を走り回って盛り上げた。

もちろん、おなじみの劇団メンバーも振り切れたキャラクターを楽しそうに演じた。特に目を引いたのが、棺桶(かんおけ)屋のお銑(村木よし子)の存在感。幕府も朝廷も裏切りも信頼も、この世のあらゆる事象に悩まされても、人はいつか死ぬ。それまでは生きるしかないという諦観めいた現実を、からりと表現した。

3時間超の舞台、キャラクターに気を取られすぎて、物語の複雑な背後にまでなかなか気が回らないのが悔しいところ。福士と宮野、初の共演とは思えない魅力的なバディだけに、この2人が活躍する別の物語も見てみたい。

28日まで、東京・池袋の東京建物Brillia HALL。問い合わせは、0570・00・3337。14日に全国映画館でライブビューイングあり。(道丸摩耶)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

無頼の宿をまとめる(左から)身堂麗波(松雪泰子)、狂介(木村了)、蛇蝎(高嶋政宏)、揚羽(清水葉月)の身堂一家(田中亜紀撮影)
無頼の宿をまとめる(左から)身堂麗波(松雪泰子)、狂介(木村了)、蛇蝎(高嶋政宏)、揚羽(清水葉月)の身堂一家(田中亜紀撮影)

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