永興寺(ようこうじ) 六
熊野誓紙(せいし)――熊野の牛王宝印(ごおうほういん)という烏(からす)の絵が描かれた護符の裏に、誓いを書く。もし約束を違(たが)えれば熊野権現の恐ろしい罰が当たるという。すなわち、違背者は血を吐いて息絶え、その魂は地獄の業火に突き落とされると信じられていた。
斯様(かよう)な誓紙など信じないという弘中隆兼(たかかね)のような武士もいるが少数派だ。多くの信心深い武士や迷信深い男女が、熊野誓紙に書いた己の言葉に呪縛されていた。
……こうなってくると桂が信心深いという話も、元就がつくり出した噓である気が……。
隆兼が思慮した時、晴賢(はるかた)が、