ロシアによるウクライナ侵攻などで食品が値上がりする中、大阪府泉佐野市は「企業版ふるさと納税」を活用して全国の子供食堂に食材を届ける国内初の枠組みを創設した。すでに企業からの寄付の受け付けを始めており、子育て家庭を支えるとともに各地の地場産品のPRにつなげる。国を相手取った訴訟で逆転勝訴し、ふるさと納税制度に復帰した同市が新しいモデルケースを示せるか注目される。
千代松大耕(ひろやす)市長は「新型コロナウイルスの影響で子供の貧困が社会問題となっている。市としてできることはないかと考えた」と話す。
企業版ふるさと納税は地方創生の一環で創設され、自治体の地域活性化事業に寄付した企業の税負担を軽くする仕組み。
市は同制度を活用して市内の農家から地元産食材を購入するほか、特産品の宣伝や販路に関する協定を結んでいる全国47自治体の農家から地場産品を仕入れ、各地の子供食堂にそれぞれの地元食材を提供する。
企業は寄付する際、支援対象の地域を選べる。寄付金は全額を食材の購入や配送代、広報費などの経費にあてる。子供食堂に食材が届くのは7月以降という。
食品は原油価格の高騰で輸送費が高止まりしていることに加え、穀倉地帯のウクライナでの戦争により小麦や食用油の供給量が減り、特に加工食品の価格が上昇している。
農林水産省の価格動向調査によると、令和2年の価格を100とした指数は、今年4月11~13日に食用油(キャノーラ油)で129・6、小麦粉で112・9となった。
「できるだけ安いスーパーを探して食材を仕入れているが、油や小麦粉、パン、牛肉などの値段が少しずつ上がっている」。泉佐野市内の子供食堂「うちカフェ」で調理などを担当する村田恵子さん(59)は表情を曇らせる。
うちカフェでは毎週金曜日に食事を提供している。大半の食材は地元の生協から寄付を受けているほか、隣接する畑で子供たちが農業体験として野菜などを栽培。それでも足りない分を購入している。
食事提供はコロナに配慮して1回1世帯(3~6人程度)の予約制としているが、すぐに埋まるという。「複数の子供を抱え、生活を切り詰めている世帯が多い。子供たちが安心できる居場所をつくりたい」と村田さん。
うちカフェを運営するNPO法人サードプレイスの中村周平・コーディネーター(33)は「子供食堂は食事提供を通じて地域の問題をすくい上げ、市などの公共機関につなげる橋渡しができる」と指摘し、子供食堂を支援する泉佐野市の取り組みに期待する。
ふるさと納税制度をめぐっては、同市が高額な返礼品で多額の寄付を集めたとして、令和元年6月開始の新制度から除外された。国の除外決定に市は「裁量権を逸脱しており違法」として提訴。1審にあたる2年1月の大阪高裁判決では請求が棄却されたが、同6月の最高裁判決は過去の募集態様を考慮するとした国の対応を違法で無効と判断し、市が逆転勝訴した。
翌月、市は制度に復帰。企業の返礼品開発を支援するふるさと納税を募るなど新しい取り組みを進める。子供食堂の支援もふるさと納税の活用策を探る挑戦の一環だ。
市の担当者は「子供食堂ごとに異なる事情に対応し、必要な食材を提供する仕組みづくりが課題だ。支援の輪を全国に広げたい」と話している。(牛島要平)