ウクライナ国防省は9日、東部マリウポリでのウクライナ軍が最後の拠点となっている製鉄所に対しロシア軍が突入作戦を行っていると発表した。製鉄所に籠城していた市民の退避が進み、露軍がウクライナ部隊の掃討に乗り出した可能性がある。一方、同日の演説でプーチン露大統領が侵攻の先行きに関し言及しなかったことで、米欧では侵攻のさらなる長期化を予測する声が強まった。
ウクライナメディアによると、同国国防省は9日、「マリウポリの製鉄所で露軍が火砲や戦車の支援を受け、突入を行っている」と発表。同市の市議もSNS(交流サイト)を通じ「11日に露軍が製鉄所に化学兵器の使用を計画しているとの情報がある」と述べた。
製鉄所にはこれまでウクライナ部隊や数百人の市民が籠城。しかしウクライナ政府は7日、「女性と子供、高齢者の退避が完了した」と発表していた。
露軍は残存部隊を掃討し、マリウポリを完全制圧した上で、製鉄所を包囲していた戦力を別の戦線に差し向ける考えとみられる。マリウポリを制圧すれば、ロシアは東部の支配地域と併合した南部クリミア半島を陸路で結び、アゾフ海の支配権も確立できる。
一方、プーチン氏は9日の演説で「戦勝」の早期達成に向けた方策を示さなかった。米欧では、プーチン氏が国民の動員を発表し、損害が拡大している露軍の再増強を図る可能性があるとの観測も出ていた。
トーマスグリーンフィールド米国連大使は米CNNテレビに「プーチン氏の演説は祝える勝利がないことを示したが、戦争終結の意図も見せなかった。私たちは紛争がなお数カ月続くとみている」と指摘。ウォレス英国防相も「プーチン氏は自分が信じたいものだけを信じている」と述べた。英メディアが伝えた。
英大学教授の著名軍事評論家、オブライエン氏もツイッターで「プーチン氏が動員を宣言しなかったことは重大だ。戦力を再構築する具体的手段がない限り、露軍は長期間戦えない。露軍の敗北に向けて時計の針が進み始めた」と述べた。