欧州の主要国であるドイツで存続を許せば、捏造された歴史が国際社会に根付きかねない―。岸田文雄首相がショルツ首相にベルリン市ミッテ区の慰安婦像の撤去を直接要請したのは、こうした危機感の表れでもある。ただ、一度設置されてしまった像を撤去するのは困難なのが実情だ。
会談で像撤去を訴えた首相に対し、ショルツ氏の反応は芳しいものではなかった。ショルツ政権は対日関係を重視するが、像はミッテ区が管轄しており、独政府として介入できる余地は少ないためだ。
そのミッテ区議会は緑の党をはじめとする左派勢力が多数を占め、昨年9月の区議選でも議席は維持された。人権などを重視する傾向が強く、像設置を主導した韓国系市民団体「コリア協議会」にとってはロビー活動を展開しやすい状況が続く。
自民党からは「政府が情報収集を通じて設置を未然に防ぐべきだ」との声が上がる。ただ、近年は市民団体側も動きを「ステルス化」(外務省幹部)させており、各国の市や区議会レベルの動きを全て事前に把握するのは難しい。
ある政府関係者は「慰安婦問題が根本的に解決しない限り『もぐらたたき』は続く」と語る。韓国政府と市民団体の直接の関係はないとされるが、韓国側が慰安婦問題を政治利用してきた姿勢が、各国の市民活動に通底していることは否定できない。10日に発足した韓国新政権は日本との関係改善に意欲を示すが、行動が伴わなければ友好は望めない。(石鍋圭)