スマート水産業で「取りすぎない」漁業に 水産資源 情報通信技術で守る

「FINE Technology(ファインテクノロジー)」が用いられたブイ(アクアフュージョン提供)
「FINE Technology(ファインテクノロジー)」が用いられたブイ(アクアフュージョン提供)

「海の豊かさを守ろう」。この項目が持続可能な開発目標(SDGs)のひとつに掲げられている背景には、世界的な人口増などによる水産資源の減少が背景にある。持続可能な水産業を実現するためには、水産資源の実態把握や効率的な養殖などが求められる。そのための解決策の一つとして近年、注目を集めているのは、最新技術を活用した「スマート水産業」だ。

魚群探知機の革命

水産資源の適切な管理のためには、まず海中を精緻に把握する必要がある。代表的な機器は、超音波を送信し、その反射波によって海の中の様子を見る魚群探知機だ。

従来の魚群探知機の最大の弱点は、波の混同を防ぐため、一度送信した波が返ってくるまで次の波を発信できないという点だった。超音波は秒速約1500メートルで海中を進む。理論上では、水深約750メートルの海底を見ることは1秒に1回しかできない。70年あまりという魚群探知機の歴史のなかで、この根本的な弱点は解決されないままだった。

そんな弱点を克服し、超音波の連続発信を可能にした魚群探知機を開発したとして注目されているのが、ベンチャー企業「Aqua Fusion(アクアフュージョン)」(神戸市中央区)CEO(最高経営責任者)の笹倉豊喜さんだ。

アクアフュージョンCEOの 笹倉豊喜さん=神戸市中央区(木津悠介撮影)
アクアフュージョンCEOの 笹倉豊喜さん=神戸市中央区(木津悠介撮影)

スマホに送信

着想のもととなったのは、携帯電話の通信にも活用されているCDMA(符号分割多元接続)という技術。CDMAでは同じ周波数帯を使う端末が複数あっても、それぞれの音声信号に別々のコード(符号)を振り分けることで、同時に同じ周波数帯で複数の信号をやり取りできる。

笹倉さんはこれを魚群探知機に生かそうと考えた。魚群探知機が発する超音波の一つ一つにコードを与え、複数の超音波を識別可能にした。1つの超音波が返ってくるのを待つ必要がなく、いつのタイミングで発された超音波が返ってきたのかはコードでわかる。

1秒間に30回以上の送信が可能。従来の魚群探知機で3回の送信しかできないところであれば、垂直、水平方向にそれぞれ10倍の超音波を送信することになるため、約100倍もの分解能で海中の様子を把握できる。群れ単位での把握だった従来の魚群探知機から進化し、魚1匹の体長までわかる鮮明さで、5センチのカタクチイワシも識別可能という。

この技術を「FINE Technology(ファインテクノロジー)」と名付け、特許を取得した。

ファインテクノロジーを搭載した機器は、定置網にも設置可能。機器で把握した海中の様子をスマートフォンなどに送信する仕組みも開発した。陸上にいながら網の中の状態が確認できるため、漁業の省エネ化、省人化にもつながるという。「網に魚が入ってないのに魚を取りに行っても、人間も燃料も無駄になる。例えばスマホで『今日は100トン入ってるな』とわかれば、漁師さんも船2隻でいかなあかんなというふうになるでしょう」

海の中という、肉眼だけでは分からない世界を相手にする水産業。1匹単位で体長も含めて魚を把握することで、幼魚の捕獲防止などにも役立つとしている。また、養殖魚の成長状況の観測やプラスチックゴミの検知、環境アセスメントなど、応用が期待できる範囲は広いという。

漁業や養殖も

経験と勘に頼る部分が大きかった水産業を技術革新で変える流れは相次いでいる。技術の力で持続可能な漁業や養殖業を目指す試みだ。

「アイエスイー」(三重県伊勢市)は、モノのインターネット(IoT)を活用した海洋モニタリングシステム「うみログ」を開発した。水温や水位、潮の流れなどを観測する装置を養殖場となっている海上に浮かべ、データをスマホなどに送信。いつでも養殖場の状況を把握できる。同社によると、特に海水温に左右されるノリ養殖の生産者から歓迎されているという。

地球の表面の7割を占めている海。国連食糧農業機関(FAO)によれば、過剰に漁獲されている状態の水産資源の割合は、1974(昭和49)年から2017(平成29)年の間に、10%から34%まで増加。反対に、十分に量があるとされる資源は39%から6%まで激減した。新たな技術も活用し、水産資源を守る取り組みが求められている。

その一つとなるスマート水産業は、国内では平成30年の未来投資会議構造改革徹底推進会合で提唱されて以来、産官学による取り組みが進む。一方で、最新技術であっても、導入に二の足を踏む水産業関係者も少なくない。

旗振り役となる水産庁の担当者は「デジタルネーティブではない高齢の世代が水産業では多い。メリットを理解してもらい、どのように普及させていくかも課題だ」と話す。(木津悠介)

目標14「海の豊かさを守ろう」 魚介類など水産資源を種ごとの特徴を考えながら、その種の全体の数を減らさずに漁ができる最大のレベルにまで回復させる。魚を取る量を効果的に制限し、取りすぎや破壊的な漁業などをなくす。

目標2「飢餓をゼロに」 食料の生産性と生産量を増やし、生態系も守る持続可能な仕組みをつくる。小規模の食料生産者の生産性と収入を倍にする。

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