歯車とローラーがぶつかる音だろうか。工場内に金属音がリズミカルに響く。大型の機械から鮮やかな色と柄の長細い布がするするっと立ち上り、すぐ別のローラーに巻き取られていく。竹野染工(堺市中区)の染色工場は、手ぬぐい生地をロール捺染(なっせん)という方法で染めている。出来上がった生地は表と裏で柄の色が違う。両面染めという技術だが、これができるのは世界でも、ここだけという。
ロール捺染は機械による大量生産の技法で古くからある。図柄が彫り込まれた金型のロールを機械に装着、ここに接着剤入りの染料を流し、生地を押し当てて染色する仕組み。その後、布地を乾燥させるのだが、これを1台のロール捺染機で行う。この機械で、手ぬぐいや布おむつ、浴衣など日用品用の生地を染めてきた。しかし、時代とともに需要が減少。機械も国内に数台しか残っておらず、うち2台が竹野染工にある。
伯父の先代社長が急逝し、寺田尚志(ひさし)社長(43)は27歳で代表取締役に就いた。当時「このままなら廃業しかない」と感じていた。実際、同業者の多くは受注減少や後継者不足で廃業していったという。
そもそもロール捺染は大量生産の安物というイメージが強かった。だが、実際は職人技が8割。寺田さんは、この機械と職人技を生かせないか、付加価値はつかないか―と考えた。
目を付けたのは片面だけを染めるロール捺染の特徴。表を染めた後、再度、裏を染めたらどうか。人気の手染めは両面に色がのるが、色や柄は同じだ。正確さが身上のロール捺染をうまく調整すれば表と裏で柄をずらさず、別の色に染められるのでは。
最初は色が透けたり、柄がずれたり。染料や柄の微調整を繰り返す。試行錯誤に4年かかり、ようやく平成29年、両面染めの手ぬぐい「hirali(ひらり)」を発売した。試練は続く。コロナ禍によるイベント中止で手ぬぐいの受注は大幅減。そこにベテラン職人の引退も重なった。
だが、新技術を開発したプライドとチャレンジ精神は折れない。両面染めの技は若手が継承、同時に世代交代が進み、インターネット販売も好調で、未来が見えた。
両面染めの手ぬぐいと同じで、ピンチとチャンスは表裏一体だった。今、新しい風が吹き始めている。
(写真報道局 南雲都)