【ソウル=時吉達也】9日に任期満了を迎えた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の退出に伴い、大統領の官邸や執務室などが置かれてきたソウル中心部の「青瓦台」は、李承晩(イ・スンマン)初代政権(1948~60年)から続いてきた70年超の大統領府としての歴史に幕を閉じた。多くの政争の舞台となった歴史の「現場」は10日午前の新大統領就任式の終了後、国民に開放され、敷地内の散策が可能になる。
青瓦台は日本統治時代に朝鮮総督府の官邸が建てられた場所で、韓国政府樹立後に大統領府として使用されてきた。名称は官邸の青い瓦屋根に由来。敷地面積は25万平方メートルで、米大統領官邸のホワイトハウス(7万2千平方メートル)の3倍を超える。
1968年には朴正熙(パク・チョンヒ)大統領暗殺を図る北朝鮮の特殊部隊約30人が、官邸まで約200メートル付近に潜入。銃撃戦が起こり、中学生らの死者が出た。朴氏は79年、敷地外れの宴会場で暗殺されるなど、青瓦台は韓国現代政治の重大事件の舞台となってきた。
一方、広大な敷地内で大統領執務室は他の建物から隔絶され、大統領と周囲の「意思疎通の欠如」が常に指摘されてきた。文氏を含む歴代大統領は執務室の移転を公約に掲げたものの、予算や警護上の問題から断念した。
10日の就任に合わせた大統領府移転を表明した尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領には「拙速な決定」を批判する声も上がったが、尹氏は「一度入ってしまうと、帝王的権力の象徴である青瓦台から抜け出すのがもっと難しくなる」と理解を求めた。
青瓦台から約6キロ離れた国防省庁舎内に移転した新たな大統領執務室は、一部の工事が6月中旬まで続く見通し。執務室移転の実務担当チームは、「青瓦台」に代わる新たな名称を公募している。