「おもろさ」追求の通天閣スライダー 舞台裏に汗と涙

タワースライダーがオープンし、滑りを楽しむ人ら=9日午前、大阪市浪速区(須谷友郁撮影)
タワースライダーがオープンし、滑りを楽しむ人ら=9日午前、大阪市浪速区(須谷友郁撮影)

大阪・新世界の観光名所「通天閣」に9日、新アトラクション「TOWER SLIDER(タワースライダー)」がオープンした。地上22メートルから一気に滑り降りる大胆な構造で早くも話題十分だが、完成までには予想外のトラブルもあった。ようやく誕生したスライダーを前に、通天閣を運営する通天閣観光の高井隆光社長(47)は「おもろいでしょ。通天閣を『パワースポッ塔』にするんや」。新型コロナウイルス禍で低迷する大阪観光の起爆剤となるか。

この日は午前10時の稼働前から行列ができていた。未明の午前1時から並び、一番乗りを果たした宮崎市の会社員、早川伸吾さん(54)は悲鳴を上げながら滑り終わると「楽しかった」と笑顔。「今日が来ることを楽しみにしていた。はまりそうです」と力を込めた。

友人と訪れた大阪市の会社員、石川涼子さん(23)は「スライダーができるなんて斬新。絶叫アトラクションは苦手だが、すごく楽しかった」と充実した表情を浮かべた。

地上22メートルにある通天閣3階からスタートし、地下1階出口までを約10秒で滑り降りるタワースライダー。全長は約60メートルで、利用者はあおむけの状態で専用の袋に入り、円筒のエレベーター塔を1回転する。スロープ部分の天井は透明で、余裕があれば外の景色も堪能できる。

高井さんがスライダー計画を考案した背景にはコロナ禍がある。年間100万人以上だった来場者は、半数以下に減少。経営はもちろん厳しいが、そんな時だからこそ「笑いでコロナを吹き飛ばす」(高井さん)ような、ユニークな企画が不可欠と考えた。

展望台からバンジージャンプ、外壁をロッククライミング…。アイデアが浮かぶたび「あかんあかん、さすがに危ないやん」。行き詰まったある日、通天閣のすぐそばに立つエレベーター塔をぼんやり眺めていると、妙案が浮かんだ。「塔に沿ってぐるって滑れたらいいんちゃうの?スライダーいいやん!」

さっそく企画案を作成し、何社もの建設会社に声をかけた。しかし、過去に同種事例がほとんどないことから、答えはきまって「できない」。諦めかけた昨春、公園遊具などの製造・建設を手がけるタンデム(大阪府東大阪市)が名乗りをあげた。

昭和31年当時の通天閣の図面を眺め、苦労を語り合う高井隆光社長(左)と今西浩司さん=4月23日、大阪市浪速区(中井芳野撮影)
昭和31年当時の通天閣の図面を眺め、苦労を語り合う高井隆光社長(左)と今西浩司さん=4月23日、大阪市浪速区(中井芳野撮影)

だが、間もなくして大きな壁にぶち当たった。「えらいもん引き受けてしまった」と頭を抱えたのが、タンデム専務の今西浩司さん(55)だ。スライダー構想にあたり、通天閣の設計図を調べたが、残されていたのは再建当時の昭和31年の図面だけ。さらに、図面に書き込まれている柱や鉄骨などの長さは、実際の長さと微妙にずれていた。またエレベーター塔がいびつな楕円(だえん)型をしており、スライダー設置には緻密な作業が必要なことも分かった。

完成直前は連日徹夜で作業にあたり、今西さんはストレスで8キロも痩せた。「知ってたらやらなかったでしょ」。高井さんの問いかけに、今西さんは「苦労の分、愛着も倍ですわ」とにやり。総工費約3億円の新名所の舞台裏には、関係者の汗と涙があった。

タワースライダーの利用料金は1回千円(小中学生は500円)。身長120センチ以上、体重100キロ未満の人が利用できる。「密」対策を考慮し、大型連休明けの9日を稼働日とした。(中井芳野、清水更沙)

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