日本で唯一のマンボウ博士 数々の伝説解明

日本一の大きさのマンボウの剥製の前で特任研究員の委嘱状を掲げる沢井悦郎さん=鳥取県境港市の「海とくらしの史料館」
日本一の大きさのマンボウの剥製の前で特任研究員の委嘱状を掲げる沢井悦郎さん=鳥取県境港市の「海とくらしの史料館」

日本一巨大なマンボウの剝製を展示している鳥取県境港市の「海とくらしの史料館」で、マンボウ研究を専門で行う「特任マンボウ研究員」が誕生した。体の後ろ半分をなくしたようなユニークな形態で知られ人気が高い一方、生態など未解明の部分が多い謎の魚。特任研究員はマンボウにまつわるすべてを研究の対象とし、成果を世界へ発信する。全国から観光客を集める妖怪ストリート「水木しげるロード」のすぐ近くに位置する同館は、このマンボウ研究で知名度アップをもくろんでいる。

研究者、世界でわずか十数人

特任マンボウ研究員を委嘱されたのは、国内では唯一、世界でも十数人しかいないというマンボウ専門研究者の沢井悦郎さん(37)=奈良県在住。沢井さんは、同館のマンボウを日本一に押し上げた立役者だ。

同館のマンボウの剝製は平成16年11月に島根県大田市沖の日本海で捕獲されたメスで全長2・75メートル、捕獲時の重量は1150キロだった。国内では福岡県と茨城県の博物館と水族館の計3館が全長3・3~2・8メートルのマンボウ種の剝製を所蔵しており、史料館の剝製は全国4番目の大きさだった。それが一躍日本一となったのは、沢井さんらの研究グループが22年、遺伝子解析などによりマンボウの一種「ウシマンボウ」を分類し、和名をつけたためだった。

調査の結果、史料館の上位にあった3館のマンボウはいずれもウシマンボウと分かり、マンボウとしては史料館の剝製が国内最大と判明。この研究成果により、ギネスブックで世界最大の硬骨魚(硬骨をもつ魚類。魚の大部分を占める)がマンボウからウシマンボウへ書き換えられた。沢井さんはさらに、29年にも新たな品種「カクレマンボウ」を確認し、命名した。

「(体の後ろの)舵鰭(かじびれ)にそれぞれ特徴がある。マンボウは波打ったようなデコボコの形状、ウシマンボウは半円形、カクレマンボウは中央部がへこんでいる」

沢井さんは、こう説明。ウシマンボウは以前から漁業者の間でも存在が知られていたが、カクレマンボウはまったくの新発見で、それゆえ「どこに隠れていたのかと思い『カクレ』と名付けた」という。

明治時代の酒蔵を改修した「海とくらしの史料館」=鳥取県境港市
明治時代の酒蔵を改修した「海とくらしの史料館」=鳥取県境港市

フィーリングが合う

「形がおもしろくて巨大、謎が多く、それゆえにひかれるものがあった。好きな理由は言葉では言い表せない。フィーリングが合うということだ」

そう話す沢井さんは幼稚園のころからのマンボウ好き。近畿大農学部水産学科で学んだあと、「マンボウを研究している人がいた」ことから広島大大学院に進んだ。博士号を取得し同大で特別研究員を務めるなどしたあと、昨年春からフリーとなり奈良の自宅を拠点に研究を続けている。

一方、海とくらしの史料館は明治時代の酒蔵を改修して平成6年に開館。魚の剝製の博物館としては日本一の700種4千点を展示している。館の約1キロ西側にはブロンズの妖怪像が人気の「水木しげるロード」があり、令和元年には年間約300万人が訪れたが、同館のその年の入館者は約2万4千人にとどまっている。

そんな史料館と沢井さんが結びついたのは、相互にかかえる課題からだった。沢井さんがフリーで仕事をするようになって困ったのは、許可申請や研究発表などの際、所属機関がないと不都合が生じることだったという。一方、史料館側は、日本一のマンボウの剝製はあるものの、マンボウに詳しいわけではなく、せっかくの貴重な剝製を集客に生かし切れていない。

沢井さんが同館の研究員になれば諸申請が容易になり、沢井さんが論文を発表すれば史料館の名前がその都度発信される。相互にメリットがあることから、沢井さんの特任研究員就任が決まった。

海とくらしの史料館で開催中の「マンボウ展」で展示されている江戸時代に描かれたマンボウの絵。漁師が何人も載るほど巨大な魚として描かれている=鳥取県境港市
海とくらしの史料館で開催中の「マンボウ展」で展示されている江戸時代に描かれたマンボウの絵。漁師が何人も載るほど巨大な魚として描かれている=鳥取県境港市

寿命も成長もすべて謎

≪夜に光る/すぐ死ぬ/卵を3億個産み生き残るのは2匹/ジャンプ後に着水した衝撃で死ぬ/切り身は一晩放置すると水になって消える≫

謎の多いマンボウは数々の「伝説」を有するが、沢井さんはこれまで実験や目視で伝説を確認し、否定してきた。

一方で、水族館で8年生きた例があるものの、寿命すら分かっていないのもマンボウの実態。成体となるのは何歳くらいなのか、なぜ尾をなくしたような形態なのか、世界にどれくらいいるのか-など、沢井さんが解明したいと考える謎は山積している。

沢井さんは「生態や形態、歴史すべてが研究対象で、謎を解いて論文を書きたい」と話す。史料館の大池明館長は「せっかく剝製があるのだからマンボウに詳しい館になり、海とくらしの史料館から世界に正確な情報を発信したい」と意欲をみせた。(松田則章)

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