正論6月号

経済快快 日本の核保有の経済的算段 産経新聞特別記者 田村秀男

キーウ近郊のブチャで、空地に集められたロシア軍の軍用車両の残骸など=ウクライナ・ブチャ(桐原正道撮影)
キーウ近郊のブチャで、空地に集められたロシア軍の軍用車両の残骸など=ウクライナ・ブチャ(桐原正道撮影)

※この記事は、月刊「正論6月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

ウクライナを侵略する核超大国ロシアによる「核の恫喝」に対し、米国がたじろぐ現実が露呈したことから、日本国内での一部では核保有論議を始めるべきとの声が強くなっている。非核三原則を掲げ、経済中心主義で一貫してきた日本は路線転換すべきなのか。軍事専門家の間で常識になっているのは、核武装は国防という観点では最も安くつく。

ロシア財務省統計によれば、国防支出全体は円換算すると二〇二〇年四兆四千四百億円、二一年五兆五千二百億円で、このうち核兵器部門への支出は二〇年一・五%、二一年一・三%を占めるに過ぎない。日本との比較のため、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータを引用すると、ロシアの国防支出規模は二〇年に約六兆四千億円、日本は約五兆一千億円だ。

ロシア財務省データと重ねてみても、軍事超大国の割には日本と大差はない。そんなロシアが戦術核兵器の使用をちらつかせて、ウクライナを支援する北大西洋条約機構(NATO)を威嚇している。

これに対し、米国のバイデン大統領はロシアのプーチン大統領を激しく非難するものの、核超大国同士の衝突につながる軍事介入を避けたい一心なのだ。このままロシアがクリミア半島に続きウクライナ東部を支配するようになれば、核の威力をかざしながら、力による国境線の変更に成功することになる。

経済力では、ロシアの国内総生産(GDP)規模は二〇年で一・五兆ドル弱、五兆ドル強の日本の三割程度である。ビジネスで言う費用対効果という点では、強権国家が少ないコストの核を背景に成果を挙げる。恐るべしである。

日本の場合、核兵器開発の期間とコストはどのくらいかかるのか。

十五年以上前の〇六年九月二十日付けで作成された「核兵器の国産可能性について」と題した政府内部文書が手元にある。入手した筆者は同年十二月二十五日付け産経新聞朝刊一面トップで報じた。記事の要点は以下の通りだ。

「〇六年十月九日の北朝鮮核実験に先立ってひそかに政府機関の専門家が調査し、まとめた。小型核弾頭試作までに三年以上の期間、二千億~三千億円の予算と技術者数百人の動員が必要」

「日本にはウラン濃縮工場や原発の使用済み核燃料の再処理技術・設備はあるが、技術上の制約から核兵器にただちに転用できない。日本が仮に核武装する決心をしてもほぼゼロからの開発にならざるをえない」

「核兵器の材料は、いわゆる広島型原爆材料の高濃縮ウランか長崎型のプルトニウムの二種類ある。日本原燃の六ケ所村(青森県)原子燃料サイクル施設や日本原子力研究開発機構東海事業所(茨城県)に、ウラン濃縮や原子力発電所の使用済み核燃料再処理工場がある。しかし、いずれも軽水炉用で、核兵器級の原料をつくるのには適さない。濃縮工場は純度三%程度の低濃縮ウランを製造するが、そのため稼働している遠心分離機は故障続きで、短期間での大規模化は困難である」

「日本が核武装するためには、結局、プルトニウム239を効率的に作り出すことができる黒鉛減速炉の建設と減速炉から生じる使用済み核燃料を再処理するラインを設置する必要がある」

十五年前の核論議からの変化

当時の核論議はどんなものだったのか。

論議を提起したのは当時の自民党政調会長、故中川昭一氏である。筆者の推測だが、政府文書は中川氏の示唆を受けて、政府部内の核技術専門家数人が調査、分析に当たったはずだ。


続きは、正論6月号でお読み下さい。ご購入はこちらをクリック


「正論」6月号 主な内容

【特集】〝脅威〟を見誤るな

新「悪の枢軸」 ボスは習近平 反共鼎談 〈反共3兄弟〉評論家 石平×静岡大学教授 楊海英×産経新聞台北支局長 矢板明夫

ウクライナ侵略から見える台湾のリスク 米シンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」部長 エヴァン・モンゴメリー、同上席研究員 トシ・ヨシハラ

日本のサイバー能力は「マイナーリーグ」 元米国家情報長官・元海軍大将 デニス・ブレア×元内閣官房副長官補・同志社大学特別客員教授 兼原信克×慶應義塾大学教授 手塚悟

中国が狙い定めた日本企業の技術 明星大学教授 細川昌彦

岸田外交に足りないインド理解 国際基督教大学上級准教授 近藤正規

【特集】岸田政権への警鐘

対露外交 あえて苦言呈す 連載「元老の世相を斬る」 元内閣総理大臣 森喜朗

自民党内の「核」議論 首相が封じていいのか 国家基本問題研究所主任研究員 湯浅博

「聞く力おじさん」で終わる気か 政治学者 岩田温

最優先すべきはデフレ完全脱却 前日銀副総裁 岩田規久男

【特集】怪しい情報に惑わされない

ロシア戦争プロパガンダ 飛びつく危険 評論家 江崎道朗

人間洞察力が情報戦を制す 東京外国語大学教授 篠田英朗

テレビを観るとバカになる 評論家 潮匡人

日本も渦中にある「新しい」情報戦 日本大学教授 小谷賢

全体主義の情報に宿る噓 麗澤大学客員教授 西岡力


【特集】ウクライナ情勢

必要なのはロシアの非ナチ化 国際政治学者 グレンコ・アンドリー

知られざる日宇交流史 神戸学院大学教授 岡部芳彦

ドローンが実現した戦争の「三次元化」 元航空自衛官・作家 数多久遠

【特集】問題化しない大問題

熱海土石流は人災だ ジャーナリスト 三品純

教科書検定の高い参入障壁 「君は日本を誇れるか」特別版 作家 竹田恒泰

弁護士会〝政治決議〟の病弊 弁護士 岡島実

「北海道開拓」何が悪いのか 開拓史家 海堂拓己

「同性愛は先天的」否定する科学的証拠 「フロント・アベニュー」特別版 麗澤大学教授 八木秀次

沖縄が脱却すべき補助金依存体質 評論家 篠原章

「在日ウイグル人証言録⑨」剥き出しの暴力支配 評論家 三浦小太郎

<証言1>アブラ(仮名、男性)「警察官もウイグル人ならダメ」 <証言2>カーディル(仮名、男性)「有為な人材が潰される」 <証言3>ホマー(仮名、女性)「ウイグルに戻ることは不可能」

なぜ日本の潜水艦は世界最高水準なのか 海軍史研究家 勝目純也

会員限定記事会員サービス詳細