主張

「キシダに投資を」 看板だけに終わらせるな

演説で経済政策を説明する岸田文雄首相  =5日、ロンドン(ロイター)
演説で経済政策を説明する岸田文雄首相  =5日、ロンドン(ロイター)

岸田文雄首相がロンドンの金融街シティーで行った演説で、「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資せよ)」と市場関係者らに訴えた。

自らが掲げる新しい資本主義で経済が力強く成長すると約束し、日本の市場や企業に対し安心して投資するよう促すことを狙った発言である。

格差是正などに力点を置く岸田政権の政策は、市場や競争に全てを委ねればうまくいくという新自由主義からの脱却を標榜(ひょうぼう)するあまり、市場軽視とみられがちだ。

これを明確に否定したかったのだろう。安倍晋三元首相が第2次政権発足後、米ウォール街の演説で「アベノミクスは買いだ」と訴えたことに倣い、「キシダ」を海外にアピールした格好だ。

ただし、看板ばかりが先行しても仕方がない。例えば首相は、投資による資産所得の倍増を実現すると表明した。ただ、超低金利政策で金融資産の運用環境が悪化している日本で、この言葉にどれほどの説得力があるのか。

そもそも海外からの対日投資を増やすには、企業の競争力や生産性を強化して経済成長力を高めることが本筋だ。そのための効果的な具体策を提示できなければ、むしろ「日本売り」が強まりかねないと厳しく認識すべきである。

首相は演説で新しい資本主義について「資本主義のバージョンアップだ」と述べた。「市場か国家か」との観点ではなく、どちらも重視して官民が連携する。具体的には人への投資や科学技術、グリーン・デジタルなどへの投資に取り組むというのが柱である。

気になるのは、格差是正などにどう取り組むかが、ますます分かりにくくなったことだろう。貯蓄から投資の流れを強めることはもちろん大切だが、資産から得られる所得が大きくなりすぎると、資産を持てる者がさらに富み、持たざる者との差が開く面もある。

ここに手を打つため、首相は昨年の自民党総裁選で金融所得課税の強化を訴えたが、業界などの反発が強く、その後は言及しなくなっていた。さらに今回、資産所得の倍増を掲げたということは、もはや課税の見直しで格差を是正する意思はないということか。

こうした点も含め、首相はもっと丁寧に説明する必要がある。海外向けに聞こえのいい言葉を連ねるだけでは、新しい資本主義への理解も深まるまい。

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