朝晴れエッセー

ひとりばえ・5月7日

「ばあちゃん、こんなところに芽がでてるよ」

「あー、それはひとりばえやな」

「ひとりばえ?」

幼いころ、祖母に連れられ自宅から少し離れたところにある畑に行くことがあった。両親と祖父は会社勤めだったので、祖母がほぼ一人で畑仕事をやっていた。

「ひとりばえ」は、まいた覚えのない場所に、以前育てた野菜の種が落ち、芽が自然に(ひとりでに)生えてくることだ。

「抜かなくていいの?」

「そのままにしといて。ひとりばえは、丈夫やから」

そういって祖母は、目的の場所を耕し続ける。祖母の背中と、「ひとりばえは丈夫」という言葉は、私の頭の中にセットで残った。

「このかぼちゃ、ひとりばえでねえ」

にっこり笑うのは、突然の帰省にもかかわらず、快く迎えてくれた義母である。

義母は、野菜の皮や種を、畑に埋めて肥料にしている。その中からいつのまにか芽を出し、育ったものが実をつけたのだ。

「ちゃんと買ってきた種や苗でも、うまく育たないことがあるんだけど。ひとりばえだと、得した気分よね」

「ひとりばえって、丈夫なんでしたね」

ほくほくしたかぼちゃを頰張りながら、私は祖母のことを思い出していた。あれはなんの芽だったのだろう。やはり、かぼちゃだったのだろうか。いや、時期的にはきゅうりだった可能性もある。

気になる。でも、もう聞けない。祖母が亡くなり、1年がたつ。


佐竹加織(46) 大阪市住之江区

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