「男としてリングに」ボクシング元世界女王・真道ゴーの決意

公開スパーリングで相手を攻める真道ゴー(右)=4月21日、大阪市東成区(須谷友郁撮影)
公開スパーリングで相手を攻める真道ゴー(右)=4月21日、大阪市東成区(須谷友郁撮影)

心と体の性が一致しない性同一性障害と向き合いながら女子の世界王座を奪取したボクサーが、男子のリングで再起を懸けようとしている。元世界ボクシング評議会(WBC)女子フライ級王者の真道(しんどう)ゴー(34)=グリーンツダ。2017年の引退後に性別適合手術を受け、戸籍も変更して男性に。すると、引退時に抱いていた「男としてリングに上がりたい」との思いが再び湧き上がった。所属ジムは本人の強い希望を踏まえ、日本ボクシングコミッション(JBC)にプロテスト受検を申請。JBCは現時点でどう対応するか明らかにしていないが、前代未聞の挑戦に注目が集まっている。

3児の父として

和歌山市出身の真道は2008年プロデビュー。13年5月、WBC女子フライ級王座を奪取し、同王座を2度防衛するなど20戦16勝(11KO)4敗の戦績を残した。17年の現役引退後に性別適合手術を受け、旧名の「橋本めぐみ」から「橋本浩(ごう)」に戸籍も変更。男性となり、交際していた女性と結婚した。

現在は故郷の和歌山市で福祉事業やフィットネスジムの運営に携わる会社を経営。3児の父として充実した毎日を送る中、「男として闘う」という思いは消えるどころか、むしろ膨らんでいった。昨年9月に復帰を決意し、所属ジムの本石昌也会長に「ボクサーとしてやり残したことがある」と相談。翌10月からリングへの復帰を目指し、再び練習を再開した。

ただ、生まれついての骨格で対戦相手より見劣るのは否めない。「必ず勝てるという自信を持てているかというと、今の私はまだまだ」。真道は4月21日に開いた記者会見でこう語った上で、「やらな分からんやろ、と。女性のリングだけど、世界戦でそれなりに経験は積んできている。トレーニングでトータル(総合力)をちょっとずつ広げていく」と力を込めた。

米国では前例も

真道が受検を目指すプロテストには、申し込み時で満34歳までという年齢制限がある。7月に35歳の誕生日を迎える真道は、5月15日に大阪で開催予定のプロテストに照準を合わせている。ただ、見通しは不透明だ。本石会長は4月27日に受検申請を提出したが、JBCは財政難により3月末で解散しており、新たな申請を受け付けていないからだ。

米国では、アマチュアで全米女子王者に5度輝いたパトリシオ・マニュエルが性別適合手術を受けた後、男子のスーパーフェザー級でプロデビューした例がある。とはいえ、国内では前代未聞の挑戦だ。

男子選手としてリング復帰を目指す意向を表明した真道ゴー=4月21日、大阪市東成区(須谷友郁撮影)
男子選手としてリング復帰を目指す意向を表明した真道ゴー=4月21日、大阪市東成区(須谷友郁撮影)

真道は4月5日、西日本ボクシング協会の山下正人会長や理事らの立ち会いの下、公開スパーリングを実施。所属ジムの同門でスーパーフライ級を主戦場とする森本元樹(28)と拳を交え、男子選手として活動することを満場一致で承認された。

スパーリングパートナーを務めた森本は、真道の実力について「動きの引き出しが多く、だてに世界王座を取っていない。(プロテストには)間違いなく合格できると思う」と太鼓判。その上で「階級も近く、自分にとっても刺激になる」とエールを送った。

苦しんでいる人の勇気に

女子としての現役時代、性同一性障害を公表して活動してきた真道。引退後も講演活動で自身の体験を語り、同じような境遇の人たちから相談を受けることもあったという。

「私自身、素晴らしい人間ではないので、『その人たちのために』という気持ちでリングに上がるわけではない。でも、周りから無謀といわれても挑戦する姿を見て、『自分も頑張ってみようかな』と思ってもらえるならありがたい。いろんな部分で苦しんでいる人たちの勇気になれたら」

多様性が尊重される時代。さまざまな人たちの希望となる自覚を持ち、再起への準備を進めていく。(上阪正人)

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