痛みを知る

古代ギリシャにさかのぼる「万能」の鎮痛薬

消炎鎮痛薬である「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs(エヌセイズ))」は、さまざまな痛みの治療に用いられている。実は、これらNSAIDsの歴史は古い。古代ギリシャ時代には、セイヨウシロヤナギの樹皮が痛みと発熱に有効であることが知られていたのだ。

その後、19世紀にヤナギの樹皮の有効成分が「サリチル酸」であることが確認され、関節リウマチや歯痛、風邪などに広く用いられるようになった。その後、ドイツの製薬会社「バイエル社」が、サリチル酸をアセチル化し「アセチルサリチル酸」の合成に成功した。このアセチルサリチル酸こそがアスピリンであり、歴史上最も売れた薬の誕生である。

身体が傷つくと体内でプロスタグランジンが合成されて発赤(ほっせき)や腫れ、痛みが起こる。アスピリンは、この痛みの元となるプロスタグランジンを合成する酵素のシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを抑制し、炎症と痛みを抑える。以後、このCOXを阻害する作用を持つ薬剤を「副腎皮質ステロイド薬」と区別してNSAIDsと呼ぶようになったのである。

紀元前17世紀に、エジプトの治療者が書いた「エドウィン・スミス・パピルス」は世界最古の医学書と考えられている。この医学書では、傷に対する体の反応を「shememet」と呼んで、その言葉の後に「火」を表す象形文字が付けられている。火は急性の炎症の特徴である赤みと熱を意味する。つまり、抗炎症薬とはこの火を鎮める薬なのである。

アスピリン以後、製剤メーカー各社は競ってNSAIDsの開発を進めた。現在では経口薬に留らず坐薬や塗布薬、貼付薬など、実に多くのものが販売されている。しかし、これらのNSAIDsには、潰瘍をはじめとする胃粘膜の障害により出血などを引き起こす危険性があり、服用後に腹痛や吐き気が高頻度で出現するという大きな問題点があったのだ。

1991年に、COXにはふたつのタイプが存在することが発見され、この問題の解決につながった。従来のCOX-1が胃の障害と関係し、新たに見つかったCOX-2は外傷や炎症により急激に増加することが確認された。つまりCOX-2の活動のみを抑え込むことができれば、副作用を軽くしかつ十分な鎮痛効果が得られる。こうして作られたのが「COX-2選択的阻害薬」であり、1999年にセレコキシブやロフェコキシブが発売された。

一方で、NSAIDs全般による副作用(COX-2阻害薬であっても)として最近、問題となっているのが急性の腎障害である。投与量や投与期間に関わらずに発症する。腎臓は血流が豊富なことから薬剤が容易に到達し、尿の濃縮に伴って腎臓の薬剤濃度が高くなることがその原因である。服用開始後数日で腎障害が発症することだってあるのだ。したがって安易な服用は避けるべきである、と考える。

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