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作家・江上剛『威風堂々』上下 幕末明治駆け抜けた巨人

威風堂々(上)
威風堂々(上)

『威風堂々』上下

伊東潤著(中央公論新社・各1980円)

明治維新を牽引(けんいん)したのは薩長土肥といわれるが、薩長が権力を握り、土佐も肥前(佐賀)も排除された感がある。本書は、そんな佐賀人の幕末明治にかけての活躍を描いている。その中心になるのは今年が没後100年になる大隈重信だ。

大隈は幼少の頃からすばしっこくて暴れ者だったが、学問的に優秀で、未来を把握する能力があった。古い朱子学を嫌い、蘭学を学び、天下国家を憂える義祭同盟で活躍する。大隈は藩に創設する英語学校の英語教師を探すために長崎に派遣される。「人との出会いは偶然ばかりではない。何かを求める者の前に、天はその求めに応じられる人を連れて来ることがある」と著者は言う。これは私たちにとっても人生の至言である。

大隈は、この長崎で後の運命を切り開く人々と出会う。三菱財閥創設者・岩崎弥太郎、伊藤博文、坂本龍馬などである。上巻では大隈が外交官として出世の糸口をつかむまでが生き生きと描かれている。

続く下巻では大隈が外交官から大蔵卿と怒濤(どとう)の出世を遂げていく姿が描かれる。しかし未来を見通す能力の高さから敵を多く作ってしまう。死期を悟った鍋島閑叟(かんそう)が大隈に5つの訓戒を垂れる。「他人に功を取らせよ」など組織人に大いに役立つ内容である。大隈は、その訓戒が守れなかったのか、明治14年の政変で下野する。しかしそこから政党を結成し、総理へと駆け上がっていく。

本書は大隈の評伝ではあるが、幕末明治は、国家的危機に際して有為な人材が澎湃(ほうはい)として登場したという意味で稀有(けう)な時代だったことが分かる。現在の複雑怪奇な国際情勢を鑑みる時、果たしてこれほど多くの人材が登場するだろうか。もし登場しないなら私たちはどこかで間違ったのかもしれない。


『小説・大隈重信 円を創った男』渡辺房男著(文春文庫・681円)

『小説・大隈重信 円を創った男』(渡辺房男著)
『小説・大隈重信 円を創った男』(渡辺房男著)

私たちが使っている「円」は誰が創ったのか。なぜ「円」というのか。明治という新時代になったとき、「財政が安定し統一貨幣が生まれてこそ国家は諸外国に認められる」との信念で通貨制度刷新に取り組んだのは、早稲田大学創設者としても名高い大隈重信である。「円」の誕生ばかりでなく、戊辰戦争、西南戦争などによる財政危機に立ち向かう大隈たち財政担当者の苦悩も描く。

江上剛さん
江上剛さん

〈えがみ・ごう〉 昭和29年、兵庫県生まれ。早稲田大卒。銀行員を経て小説家に。『再建の神様』など著書多数。近著に『創世(はじまり)の日』。

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