自民、専守防衛見直し論 「必要最小限度」解釈修正

「国家安全保障戦略」など3文書改定に向けた自民党提言を受け取る岸田首相(右から2人目)。同3人目は小野寺五典安全保障調査会長=27日午後、首相官邸
「国家安全保障戦略」など3文書改定に向けた自民党提言を受け取る岸田首相(右から2人目)。同3人目は小野寺五典安全保障調査会長=27日午後、首相官邸

政府は、日本の外交・安全保障政策の長期指針となる国家安全保障戦略(NSS)など「戦略3文書」の改定について、7月に見込まれる参院選後に本格的な検討作業に着手する構えだ。秋ごろには「最大の山場」(自民党幹部)となる公明党との協議を経て、年末の閣議決定を目指す。

自民党安全保障調査会が4月27日に岸田文雄首相に手渡した提言では、日本を取り巻く安保環境が厳しさを増す中、攻撃を躊躇(ちゅうちょ)させるため、相手領域内のミサイル発射拠点などを攻撃する能力として「反撃能力」の保有を求めた。また、防衛費も国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に5年以内の水準達成を掲げた。

提言内容は参院選の自民公約に反映され、選挙戦で争点の一つとなりそうだ。政府は既に有識者ヒアリングを始めているが、参院選後に本格的な検討作業を始める。今後は令和5年度予算編成の考え方を示す「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」での記載や、8月末の5年度当初予算概算要求でどの程度関連予算が盛り込まれるかなどが焦点となる。

秋ごろには防衛力強化に慎重な公明との協議を控えており、政府案に理解が得られるかがポイントとなる。5年度当初予算案の編成と合わせ、政府は年末までに新たな戦略3文書の閣議決定を目指す。

戦略3文書はNSSのほか、防衛計画の大綱(大綱)、中期防衛力整備計画(中期防)からなる。

自民党安全保障調査会が政府の戦略3文書改定に向けて取りまとめた提言の決定過程では、「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有をめぐり、憲法9条に基づく「専守防衛」の見直し論も一時浮上したが、保有する防衛力を制限する「必要最小限度」の範囲を柔軟に解釈すべきだと提起するにとどまった。改憲論議よりも現実への対応を優先した形だが、現行憲法の限界も改めて露呈した。

「専守防衛を維持したままでは対応に限界があるのではないか」

提言案を審議した4月26日の自民党総務会では、専守防衛の見直しを求める声が複数上がった。安保調査会長の小野寺五典元防衛相は「これについて議論するなら憲法レベルでの議論の場が必要だ」と慎重な考えを示し、その場を収めた。

専守防衛は憲法9条の規定に基づき、相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使する受動的な防衛姿勢を指す。その行使の態様や保持する防衛力については「自衛のための必要最小限」とされる。

政府は相手に攻撃を躊躇させる手段として、相手領域のミサイル発射拠点などを攻撃できる敵基地攻撃能力の保有を検討。相手が攻撃に着手した後であれば自衛権の範囲内との見解を示している。

だが、相手がミサイルなどを発射する前に攻撃するのは専守防衛と矛盾しないかとの議論が国会などでなされてきた。提言をまとめた安保調査会では、この際、専守防衛の名称を「積極防衛」に変更したり、解釈を見直したりすべきだとの意見も出た。

提言では専守防衛を維持した上で「必要最小限度の自衛力の具体的な限度は、その時々の国際情勢や科学技術等の諸条件を考慮し、決せられる」と記述。安保調査会の木原稔幹事長は「原則としての専守防衛を大きく変えるものではない。条件によって変わっていく」と説明した。

先制攻撃を禁じる国際法と専守防衛の違いは何か。国際法が認める自衛権行使の条件は、武力行使以外に自衛の手段がないこと(必要性)と、受けた攻撃に対してバランスのとれた形で行使すること(均衡性)だ。専守防衛は、さらに武力行使を「必要最小限度」にとどめるよう求める。

わかりやすく例えれば、国際法ではミサイルを100発撃たれたら100発撃ち返せるが、日本は相手が攻撃を中断するための必要最小限度が2、3発なら、2、3発で済ませなければならない。

しかし、敵基地攻撃能力を保有して相手に攻撃を躊躇させる場合、従来の「必要最小限度」では機能しない恐れがあり、提言は解釈修正を試みたといえる。

夏の参院選後に本格化する政府の戦略3文書改定作業では、敵基地攻撃能力の保有に慎重な公明党から理解を得ることも求められ、専守防衛をめぐる議論の行方が注目される。(市岡豊大)

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