ロッテ・佐々木朗希投手(20)への〝審判恫喝(どうかつ)問題〟の余震が続いている。恫喝した⁉ 白井一行審判員(44=甲賀総合科学専門学校出身、審判歴26年目)の行動に対する批判や擁護論が球界の枠を飛び越え、異業種の識者や芸能界、海の向こうの大リーグでも大きな話題となっている。
世論を分けた出来事は4月24日のオリックス対ロッテ戦(京セラ)の2回裏に起きた。その試合に先発するまで17イニングをパーフェクト(4月10日のオリックス戦で9回を完全試合、4月17日の日本ハム戦では8回パーフェクト)に抑えていた佐々木朗希投手がボール判定の際にとった態度が不服そうに見えたことで球審を務めた白井審判員は鬼の形相で詰め寄った。間に入ったロッテ・松川虎生捕手になだめられ、白井審判員は引き返したが、今や日本球界の至宝とも言われる佐々木朗希に対して、倍以上の年齢の審判員が食ってかかった?行動には、賛否両論が飛び交い、いまだ鎮火する気配はない。
この問題は4月28日に行われた選手会と日本野球機構(NPB)との事務折衝の中でも採り上げられた。選手会は審判員への対応方法などを問う質問状をNPBに提出する意向を示し、選手から「日常的に審判団とのコミュニケーションが不足している」という声も寄せられたため、選手会と審判員の代表者が話し合いの場を設けることも決まった。両者が二度とこうした事態を招かないために相互理解しよう…というのだ。
ただし、先ほど示した世論を分けた…という表現は少々、実際の空気感とは違う。逸材の佐々木朗希に対して、年配でしかも世間的には〝誰でもできそうな審判〟が高圧的な⁉態度を取ったことへの批判の声の方が擁護論よりも圧倒的に多い。これは現在、友寄正人審判長(64)を筆頭に約50人在籍している日本プロ野球審判員に対する世間の理解(情報)が不足していることも大きな原因だろう。
日本のプロ野球審判員を養成するアンパイア・スクールは2013年オフに開校した。現在は同スクールを経ないとプロ野球の審判員にはなれない。過去8シーズンに入団テストを経て研修員に採用されたのは約30人。これは約1000人の応募者を書類選考した結果、約500人に絞り込み6泊7日の採用テスト(身体検査、実施テスト、野球規則の修学、筆記試験)を経て、〝生き残った〟人数だ。応募者の約3%しか研修員にはなれない。さらに研修員は1シーズン、独立リーグに派遣され実施テストを受ける。そこから約半数の人が脱落する。残った人が育成審判員となり、レギュラー審判員になるためにはさらに切磋琢磨しなければならない。狭き門をくぐった人だけがレギュラー審判員の道に進める。さらにNPBとの業務委託契約は1年契約の更新制だ。
白井審判員はアンパイア・スクール開校前の1997年に入局しているが、審判員としての評価が貶(おとし)められるものではない。審判歴26年の熟練の仕事、経験値は厳しい採用テストを経て審判員になった若手よりも評価されている。白井審判員も審判団が共有するプライドを胸に秘め、日々の試合で判定を行っているはずで、佐々木朗希の態度を看過できなかったのは、こうした審判員が直面している厳しい背景があることだけは知っておいた方がいい。
つまり、球界の至宝…の佐々木朗希に対して〝誰でもできそう〟な審判が…という見方は一度、心から消し去って客観的な目で騒動を見直した方がいい…という論旨だ。ただ、それでも『少々、苦笑いを浮かべた程度の若い投手にベテランの審判員があそこまでやるのか!』という声は消えないだろう。今回の〝恫喝問題〟が審判団全体の立場や日々の努力、研鑽を否定的に捉えられることだけは避けなければならない。
(特別記者)