小学校4年生の頃だったと思う。海上保安大学校の敷地内で日曜日に子供写生大会があった。市内の子供たちがたくさん集まり、私も2歳違いの妹と母親に連れられ参加した。
母親は仕事があり写生大会が終わる頃、迎えに来ることになっていた。しかし、仕事が長引いたせいか写生大会はとっくに終わり、子供たちも誰もいなくなったのに母親は迎えに来ない。
不安そうな兄妹を見かねてか、2人の大学校の学生さんが声をかけてくれた。不安を払拭させようといろいろな話をしてくれ、敷地内の案内までしてくれた。
1~2時間後、母親が迎えに来たとき、学生さんは軽く会釈をしてその場を去った。
あれから50年以上の月日が過ぎたが、今私は海上保安大学校の近隣で医院を開業している。時々学生さんも受診する。
衣服の上からでもわかる鍛え抜かれた肉体もさることながら、礼節をわきまえた機敏な態度にはいつも感心させられる。
海難事故から国民の命を守るため、領海周辺での有事に備え国家の安全を守るため、そして社会で活躍する先輩たちの姿にあこがれ、日々研鑽(けんさん)を積む若者の姿はまぶしいばかりである。
今どきの若者は、という言葉は彼らには無用である。むしろ今どきの年寄りはといわれそうで、彼らに接するたび襟を正す日々である。
伊藤衛(64) 広島市南区