勝って祖国を敵の手から取り戻すか。負ければ国を亡くし、あのプーチンの支配に甘んじるか…一秒たりとも油断できぬ戦いを続けるウクライナの国民にとっては、取るに足らん事情で不肖・宮嶋、やむなく内地(日本)へ戻った。
戦いを内地で、ただただ見守るしかない、わが身がもどかしい。やはりカメラマンは現場に立ってこそ存在価値がある。安全な内地でぬくぬくと平和の惰眠を貪(むさぼ)るわけにはイカン。早う戻りたい。しかし、帰国したからこそ分かることもあった。
それは、内地で安穏と傍観者に甘んじていて恥じぬ一部日本人の姿である。やれ「ウクライナ側にも侵略される理由があった」やの「拷問された市民の遺体はウクライナ側の自作自演」やの、ロシアの言い分に乗っかった輩(やから)のことである。
あんのう…ワシはロシア軍撤退直後のブチャで、この目で見たで。ロシア軍に焼かれたブチャ市民の遺体から立ち上がった異臭の記憶がまだ、この鼻に残っとるわ。
そこでは市民から自由にインタビューもできた。中国みたいに途中で質問をさえぎったり、カメラのレンズをふさぐことは一度もなかった。
逆にロシアの前線でそんな自由な取材がでけるか? ちょっとでもプーチンの気に障るような「報道」しただけで、懲役刑くらうように、法改正までしたんとちゃうの?
ロシアが「自作自演」というのは、自分らがやってきたからやろ。チェチェンやジョージア(グルジア)、クリミア、ウクライナの東部2州で。プーチンは諜報機関のKGB出身やで。破壊工作はお手のもんや。だから即答で自作自演というたんやろ。
そのウクライナの首都に、とうとう中国のテレビ局らしいクルーが現れよったのである。いまだ中国外務省のスポークスマンが「(ロシアへの)非難は事実に基づくべきだ」などとほたえとる国のメディアのことや。どうせロシア寄りの「報道」しかせんことはウクライナは百も承知や。そんな連中に自由に取材されても「真実は変わることがない」と信じとるのである。
◇
【プロフィル】宮嶋茂樹
みやじま・しげき カメラマン。昭和36年、兵庫県出身。日大芸術学部卒。写真週刊誌を経てフリーに。東京拘置所収監中の麻原彰晃元死刑囚や、北朝鮮の金正日総書記(当時)をとらえたスクープ写真を連発。写真集に『鳩と桜 防衛大学校の日々』。